第5話
駅前の某所
落ち着いた感じの装飾が施された店の中に彼女はいた。
「ふふん、ふんふん♪ ♪♪~」
「あらら、恋華さんや。ご機嫌ですね」
「は? くたばれ」
さっきまでの上機嫌はどこへやら。
軽口をたたいた相手に容赦のない声を掛ける女。
「いや、当たり強すぎだろ」
「うっさい」
「......あんたほんとモテないわ」
呆れたようにそう言って、近場の椅子に腰かけてタブレットをいじり始めた。
「つか、
「そう」
「...最悪」
「いや、あんたマジモテないわ」
明らかにオーバーキルといったようなあたりではあるがなれたような感じで、裁いていく彼女を見るにそれは慣れしたじんだ光景なのだろう。
「ふーん、今日新作の日だし忙しいかなぁ。 残業確定かなぁ」
「マジ?」
「恋華。 今日アンタ逃げないでよ」
「いや、逃げねぇし。 てか逃げたことねぇし」
「は? あんた『ヒロと予定あるからパス』って言って何回逃げたと思ってんのよ?」
「......してねぇし」
「........マジ逃がさねぇからな」
何か燃えるようなものを瞳に宿し志保はそういうと、これでもかというほど今日の予定を列挙していった。
―――――――――
―――――――
―――――
「はぁ、マジだるい。 もう男物置くのやめない?」
「いや、ここのメインの売り上げメンズだからね?」
めちゃくちゃのやる気を失ったような態度で休憩室で愚痴る恋華に志保は声を掛ける。
時刻は19:30
服飾店にしては頑張った時間帯で、実際もう店内の照明は最低限足元を照らす程度にして落とされている。
だからこそ、激戦を超えた彼女たちは休憩室で気を抜いているのだ。
「てか、あんた今日もモテてたわね。 うんむかつくくらい」
「は? 怠いだけだって。 キャバのスカウトとかもあったし」
「ほう、全部?」
「いやそうじゃないけど、『彼氏はいないんでしょ?』って余計なおせわだっての」
「いーじゃんほんとのことだし。 作っちゃえば?」
「いやいらないし」
「.......ふーん。 彼氏いらないんだ。 そーなんだ」
なんとも言えないような強めの言い回しをしてくる志保に、恋華は即答はできなかった。
「なにが言いたいわけ」
「いやぁ、恋華は彼氏がいらないなら私が欲しいなぁって思って」
「ふーん。 あんたじゃ無理だし」
「へぇそかそか」
にやにやとしながら答える志保はこれまた嬉しそうに、
「で? 誰のこといってんのそれ?」
そう告げた。
「あんたねぁ!!」
「あ、ほら来たみたいだよ」
「......ふん!!」
今まさにっといたタイミングで、志保はそういって店の裏口のチャイムの音に反応する。
それとともに恋華はカバンをもって立ち上がった。
「マジ覚えときな」
「はいはい、ほら送ったげるから」
恋華の背中をさぁさぁというかんじで押していき裏口へと連れ出していく。
「はーい。 ヒロヤこんばんわ」
「あ、志保さんどうも。 恋華さんお疲れ様です」
「ありがとヒロ。 こいつのことはいいからいこ」
「えっと....「ああ、いいから行って行って。 せっかくだしシャッターだけ占めてってねヒロヤ」はい」
学校帰りというには遅い時間。
そんな時間に上だけパーカーを着て、下は指定のスラックスといった感じの男の子に恋華を志保は預けて送り出す。
恋華とは違って、礼儀正しく挨拶をしてくる男の子に志保は楽しそうにして送り出し、姿が見えなくなった後店に戻った。
特に用はもうないのだが、一度席に座りさっきの行動を志保は思い出す。
「あの恋華がねぁ。 がんばってほしいねぁ」
腐れ縁であり、悪友仲間。
『高校出たら、とりあえずどっか行くわ』
そんな漠然としたような、目標も何もないような生き方をしていた女が今は自分と一緒に働いている。
まぁそうなった原因である男の子が今日も一緒にいてくれた。
それがたまらなくうれしくも思えたのだ。
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