第1話

 「.......ハァア」


 リズムのよく、不快感Maxの音で目を覚ます。

 

 時刻は06:00


 この時間に起きている人は珍しくはない。

 そんな時間だが、自分を鑑みると珍しいだろう。


 学校までは電車やバスの絡みがあるわけでもなく、徒歩で十分。

 いわゆる部活マンってこともなく、朝部活なんざない。

 

 まぁ帰宅部ではないけど自由参加。

 そんな感じ。


 

 寝間着を脱ぎ捨てて、クローゼットの取っ手に掛けといたノンアイロンシャツに腕を通し、洗面所で頭に思いっきり水をかけてやればほぼ完成だ。


浩也ひろや。 おはよ」

「うい」

「ういってなんだし」  

「ちゃんと挨拶しろし」


「ぐは」


 制裁とばかりに、緩めのパンチを脇腹に食らうが一応声だけは出しておく。

そうすれば満足したように、さやはタオルをなげてくる。


 それを受けつつ、リビングへとむかえば、すでに食卓には朝飯が並んでいた。


 俺の席だけ。


「ほんと、あんたって普段からこうなら楽なんだけど」

「マジか、普段からこの時間に飯作れるのか?」


「......辞めて」


「ごめんて」


 母親からのジャブに、ちょっと強めのストレートを返せばマジで嫌そうな顔をされる。

 別段うちもそんなに朝が遅いわけではなく、朝飯は6時40、50分くらいからなのだが、一度マジで主婦の朝の数十分の重要性を説明されたことがある。


 あの時の目はマジだった。


「ほら、早く食べていきな」

「いや、そんな早くいってもあれだろ」


「遅れたらシバく」

「......なんかおかしくね?」


 そんなに子供が憎いのかといういうような発言に戦々恐々しつつ、俺は箸を進めた。


―――――

―――

――



 急かされて飯をくって、急かされて家を出されて、歩くこと数分。

 ぶっちゃけまだ、半分くらいしか頭が覚醒していない俺ではあるが、大したもんで目的地にはすぐについた。

 

 といっても、本当に近所なのだが。


 ちょっと立派な体育館の傍の、人気にんきのないバスケコート。

 ゴールも一個しかなく、フェンスみたいな囲いもなければ、ゴールのネットもちぎれてなくなり、ただの輪とかしてしまったそんなところ。


 ただそんな人気のない、コートには先客が一人。


 近くのベンチに腰掛け、足を前後に揺らして暇にしているそんな女性。


「お、ヒロ! おはよ」

「うっす」


 どうやればそうなるんだというような、綺麗な銀髪のロング。

 普段のばっちりめのとはちょっと違った感じの柔らかいメイク。

 

 んでもって、一本の裏切りもなくきれいにまとめられた低めのポニーテール。


 そして極めつけは、


「早起き出来て偉い」

「何すかそれ...」

「ふふ、今日は勝つよ!」


 バスケットボールをかかえて、黒のジャージ姿。

 一見すればスポーツマンだし、見方によってはヤンキー。


 まぁ、あながち間違いではないが。


「ほな行きますか」

「おし来い!」


 俺のちょっとふざけた掛け声に合わせてボールを投げてくれる。

 

「つか、恋華れんかさん。 今日は俺の何すね」

「そーそー。 なつい?」

「まぁそっすね」


 別段、そんな思いっきりの攻防でもなく緩いドリブルの中、見覚えのあるそれに軽く触れる。

 

 聞けばニコニコとした顔で、上に着たジャージを摘まんでアピって来るがその目はボールを見ている。


――抜かりない


 別段、決めた日にやっていないからあれなのだが、着回しのローテがうまくいかないだかの時に着なくなったジャージを一着渡したのだ。

 

「ほい!」

「あ、ちょ、」

「よし」


 ちょっと距離を取ってのシュートは綺麗に弧を描いてゴールに入った。


 それを見て、ちゃんと悔しそうにこっちを見てくる彼女。


 なんとも不思議な感じだが、これが今の俺のルーティンだ。


 

 


 


 

 

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