周りが全力で外堀を掘っているんだが
紫煙
プロローグ
「いけ!
「決めてください! 瀬川先輩!」
普段はめったに使うことのできない、市内の大型総合体育館
コートも、二分割にしたものではなく、贅沢に一枚にしたもの。
左右には各チームのベンチに、スコアとかの乗ったオフィシャルテーブル。
そして二階席に見えるのは応援に来てくれている各方面の方々
手元に来たボールを、どうにか受けドリブルにつなげる。
ここまでの段階で分かるように練習試合なんてかわいいものではない。
「根性!!」
そんな強い言葉にちらりと視線を上げれば、今朝は
『へぇ試合今日だったんだ? がんば』
なんて素っ気なく送り出してきた姉が、最前列で根性の文字が力強く書かれた旗を振ってる。
――それ、うちの応援の旗じゃん。
どうにも、後輩たちから奪ったのだろう。
負けれない理由がまた一個できた。
なし崩しに入ったバスケ部
中学に上がった時に、たまたま春休みに買った某バスケ漫画にはまり、ちょっと覗きに行って、投げられたボールを取ったら、
『君! 才能あるよ!』
なんていう、体育会系典型のうまい勧誘に乗せられて入ったのが始まり。
小遣い制の我が家では、小遣いでは絶対足りないから小遣いなしの、部活関連費工面、なんだかんだ必要時は工面みたいな感じで話がついたのは懐かしい。
しかも親父が、逃げるな!
なんて言って、マジで辞めたいときもやめれなかったし。
まぁそんなくそみたいなこと考えてもしょうがない。
目の前にいるのは、何度か練習試合で相手したことのあるやつ、
身長は高いわ、うまいわで勘弁してほしいやつ。
でも引くわけにはいかないんだ。
シュートの練習は何度もした。
下手だからこそ何回も。
それでも一番自信があるのは。
「しゃぁ!!」
思いっきりドリブルをしてレイアップへと持っていく。
時間も残りあと一分ほど。
これで決めればほぼ決まる。
これが一番自信がある。
だから大丈夫だ。
綺麗に弧を描いてゴールへと向かっていくボール。
ただそれを見ているとき、
「くっそ!!」
目の前でディフェンダーが飛んだ。
一瞬まずいかと思ったが、そいつの手はボールに触れることはなかった。
――決まった。
そう実感したとき、
「.....あ」
「え?」
目の前のディフェンスとぶつかった。
とんだ方向がお互いに向き合うようになっていたのだ。
よくあることだ。
ただ一つ、大きないつもとの違いがあるとするのならば、
「あれ?」
最後の締めくくりになるかもしれない大会。
そのラスト数分だから、体は疲労しきっていたのだ。
お互いに、
空中で見事にバランスを崩した俺たちは、でたらめな体制でコートへと落ちていく。
「入った」
地面に落ちる手前に、口に出せたかは知らんがそういった気がする。
歓声と一緒に
「ヒロ!!!」
そんな悲鳴じみた声が聞こえた。
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