※騎士視点。


 彼女、勇者として召喚された少女・カエデと出会ったのは運命だと思っている。


 最初は勇者の力――魔王を倒す力を宿しているとはいえ、一度も剣を握ったことがないひ弱な少女という印象しかなかった。

 当然、この世界は彼女にとって困難だらけだった。何度も怪我負い、ボロボロになることもあった。それでも彼女は剣を振り、果敢にも魔王との戦いに身を投じた。


 ただ家に帰りたいという一心で。


 その事を知ったのは、ある日の野営でのこと。

 すすり泣く声を聞いて、声の元を探したら。


 必死に声を殺し、泣いているカエデを見つけた。


「どうしたんですか?」


 声をかけると彼女はハッとした顔をして、涙を拭いなんでもないと顔を背けてしまう。

 僕は彼女のそんな態度が哀しくて、思わず泣いてる理由を聞いてしまった。

 彼女は目にゴミが入っただけと話してくれなかったが、しつこく聞いたせいだろうか。


「夢に両親と友人が出てきたの、それで元の世界が恋しくなっただけ」


 ポツリと話してくれた。


「私が勇者として戦っているのは帰りたいから、ただそれだけ。失望した?」


 続けてそう話す彼女に僕は。


「いいえ、失望なんかしません。貴方が無事に帰れるように必ずお守りします」


 守らなければと強く思った。


 誓いの言葉を立て、彼女の前に跪くとカエデはそこまでしなくてもと驚いていたのは良い思い出だ。


 魔王を倒し彼女が帰るべき場所へ。

 その為に僕は父から授かった剣を振るおう。

 そう強く誓った。




「ああ、夢か」


 寝ずに動いてる事を知った部下達に見張っているので寝て下さい! と仮眠室に押し込まれ、いつの間にか眠っていたようだ。

 それにしても懐かしい夢を見た。風に靡いていた艶やかな長い黒い髪に涙で濡れたブラウンの目、全てが懐かしい。

 そう思い返していると、彼女を帰してあげたかった、一度で良いから笑って欲しかった、という気持ちが込み上げる。

 もう彼女はいない。

 魔王と共に亡くなった。

 今はもう無理な話だと切り捨て、見張っているであろう扉越しの部下に話しかけたが返事がない。

 おかしいと思い、扉を開けるとドサリと部下が後ろ向きで倒れてきた。


「おい!! どうしたんだ!!」


 床に落ちる前に倒れる部下を支える。

 何度も揺するが意識がない、体に外傷はない、死んではいない、ただ寝ているように見える。だが反応がない、まるで死んでいるように。


「・・・・・・彼女の所に行こう」


 嫌な予感を感じ、幼馴染である魔道士の元へ向かった。


 魔道士の元へ向かう途中、メイドや見張り兵達が部下と同じように倒れていた。

 これだけの人数をこんな風に出来るのは人外ぐらいだ、あの二人を焼き殺した者が動いていると確信した僕は走った。

 仲間の死は彼女が、カエデが悲しむ。

 もうこれ以上、犠牲は出さない!!


 幼馴染の部屋の前まで行くと見張りの兵士が倒れていた。部下達と同じではなく喉を切り裂かれ殺されていた。

 幼馴染の見張り兵達には催眠といった特殊魔術が効かない装備を着ている、その為、殺されたのだろう。

 城内全ての人間に魔術をかけ、手練れの彼らを殺せる程の実力の持ち主。

 これは死ぬ覚悟で挑むしかない。

 剣の柄を強く握りしめ、剣を抜き、幼馴染の部屋へ突入する。


 幼馴染の名を叫び、部屋に入ると。


 首を絞められ苦しむ幼馴染と。


 長い赤い髪に金色の目の女――カエデに似た女が居た。


「カエデ・・・・・・?」


 思わずそう呟くと女は僕の方を向いた。

 女と目が合う、女の表情は無表情で何を考えてるか解らなかったが一つだけ解ったことがある。女が死んだはずのカエデであるということに。


「カエデ!!!!!!」


 彼女が、カエデが生きていた。

 その事が嬉しくて、僕はカエデを抱きしめた。

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