③
城内のあまりの騒がしさに起きた魔道士は弓使いが何者かによって焼き殺されたと聞いて耳を疑った。
「弓使いが殺されたですって? しかも焼き殺された?」
「本当だ。メイドの悲鳴が聞こえて見に行ったら丸焦げになった彼奴を見たんだ」
格闘家は日課の朝の鍛錬後に悲鳴を聞いて見に行った事を話す。
弓使いは自分達、魔王討伐メンバーに選ばれる程の実力者。
そんな彼があっさりと殺されるなんて魔道士には考えられなかった。だけど、周囲の騒ぎから真実なのだろうと魔道士は受け入れたが。
「それにしても翌朝まで気付かなかったって、近くに兵士がいたのでしょ? どうして気付かなかったの?」
疑問を吐き出した。
嫉妬で何かしでかす輩が出るかもしれないと国王が配慮して兵士を見張りとして派遣してくれたのだ。しかも、国王が腕前を認める者達を。
そんな兵士達が気付かないのはおかしい。
それを聞いて格闘家も確かにと同意した。
「兵士達の話では全然気付かなかったそうだ」
二人の間に割り込んできたのは鎧を身に纏う騎士だった。
キリッとした姿に楓の死を聞いて嘆いていた姿はない、騎士のその様子に魔道士は気をよくし頬を染め駆け寄り、猫撫で声を出す。
「弓使いが殺されたって聞いて不安だったの、何処に行ってたの?」
「王から命を受けて、周りの聴き取りと弓使いの遺体を確認していたんだよ」
「まあ、そんな事してたの!? 魔王討伐の後に大変ね、忙しいでしょ?」
「・・・・・・彼女の死を忘れる為なら忙しくても構わないさ」
騎士の言葉に魔道士は歯ぎしりをする。
死んでも騎士の心に残る楓に魔道士は嫉妬した、そんな彼女の様子を格闘家は呆れた表情で見ていた。
「さて、気を取り直して。弓使いの検死をした医師が言うには体内から燃やされて殺された可能性が高いそうだ」
こほんと咳払いをし、騎士は二人に弓使いの検死で判明した事を話した。
それは弓使いは体内から燃やされ殺されたというもの、この話に二人とも驚愕する。
「体内から!?」
「ああ、弓使いの魔力経路を使って燃やしたんじゃないかと医師は推測しているよ」
魔力経路、魔術を使う際、体内に存在する魔力を循環させる器官で、魔力を生まれた時から持っているこの世界の人間には必ず存在する器官だ。
体中に血のように張り巡らされており、それを使えば体内から燃やせる事は容易いだろう。
しかし。
「魔力経路に干渉出来るなんて、そんなの人外の仕業よ!?」
魔道士は言うとおり、他者が魔力経路に干渉することはほぼ不可能、出来るとしたら人外ぐらいだろう。
騎士は魔道士の話に深刻そうな表情を浮かべ。
「もしかしたら、魔王側の残党の仕業かもしれない」
言い放った。
「残党だと!? ふざけるな!! 魔王の配下は全員倒しただろうが!!」
「確かに信じられないかもしれない。だが、あの場には居なかったか僕達から隠れていたのか、どちらにせよ、弓使いは人外によって殺されたのは間違いない。それに人外ならば気付かれずに侵入も出来るだろう」
「そ、そんな・・・・・・」
魔道士は顔を青ざめさせ、格闘家は全ての魔王の配下を倒しきれなかったという怒りからかブルブルと体を震わせていた。
「これは王からの命令だ、二人とも単独行動は控え、二人で一緒に行動を共に、王からは新たに護衛を派遣するそうだ。それと祝賀会は中止が決定した」
「解ったわ。貴方は大丈夫なの?」
「平穏を守るのが騎士である僕の仕事だよ、それに仲間が数人、僕の傍に付いてくれる事になってるから大丈夫だよ」
か弱い雰囲気を出しつつ上目遣いで魔道士は騎士を心配そうに見つめるが騎士は心配無用と仲間に呼ばれ去って行った。
騎士が見えなくなると魔道士は先程のか弱い雰囲気を止め、はあーと溜息を吐く。
「大変な事になったわね。こんなことになるならあの女を生かしておけば良かったわね。被害は彼奴だけに済んだかもって?」
魔道士はキョロリと辺りを見渡すと格闘家の姿がなかった。
格闘家は怒っていた。
魔王討伐に入ったのは金の為でもあるが一番の理由は強敵と戦い、両親に実妹との結婚を認めさせるためだ。
格闘家には一人の妹が居る、町一番の美人と称される妹は幼い頃から男達から注目の的だった。
妹に近づく男の中には良からぬ事を企み近づく者も居たため格闘家はそんな不届き者から妹を守ってきた、いや近づく男全員から守ってきた。
だから、妹には兄であり守れる男である自分が相応しいと討伐に出向く一年前に15歳になり成人した妹にプロポーズしたが。
――気持ち悪い!!
そう吐き捨て妹は両親にこのことを報告。
――実の妹に求愛するなんて悍ましい!! 出て行け!!
と格闘家は家を追い出されてしまい、当てもない為、冒険者となり過していたところをスカウトされ討伐メンバーに加わった。
魔王だけでなく配下も全て倒したとなれば両親も妹との結婚を認めてくれるだろう、それに報酬としてかなりの金額も支払われる。両親だけでなく妹も結婚に頷いてくれるに違いない。
なのに生き残りがいた。
これでは妹との結婚が認められない。
絶対に倒す。
そう意気込んでいると。
「ばかなおとこ」
格闘家の首にひんやりと冷たい手が纏わり付いた。
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