②
「嘘だと言ってくれ!? 彼女が? カエデが死んだ? なぜ!? 勇者である彼女が魔王と共に死ななければならない!?」
楓と共に魔王討伐の旅をしていた騎士は楓の死を知らされ泣き叫ぶ。
彼は楓に惚れ込んでおり、彼女を殺す際の一番の邪魔になるのは確実だったため、彼だけ国王からの命令、楓の暗殺を聞かされてなかったのだ。
そのため、彼には楓は魔王討伐後、力尽きて亡くなったと知らせた。
「彼女、楓の遺体は!?」
「・・・・・・彼奴の遺言で魔王が二度と蘇らないようにとこの場で、魔王城に埋めてくれと言われてな」
「あ、ああ・・・・・・・・・・・・」
本当は放置したのだが事実を言うわけにもいかず格闘家は騎士にそう話すと騎士は手で顔を覆い、嘆いた。
騎士のその姿に魔道士は面白くなさそうに見る。
――あの女の何処が良かったのよ!!
魔道士は楓が嫌いだった。
理由は簡単、自分が想いを寄せる騎士が惚れていたからだ。
魔道士と騎士は幼馴染、幼い頃から彼に好意を寄せていた彼女にとってポッと出の楓に騎士を奪われ、暗殺の命令を下されたときは狂喜乱舞し、自ら楓を殺すと名乗り出るほどに。
――でも、あの女はもういない。私が殺した。
嘆き悲しみ騎士に目もくれず魔道士は歪んだ笑みを浮かべた。
騎士が落ち着いた頃を見計らって、魔道士の転移魔法で王国に戻り、王に魔王討伐と勇者・楓の死を報告する。
「・・・・・・そうか、勇者は魔王を討った後に。誠に残念だ」
勇者暗殺の命を下した立場でありながら、本当に無念だという表情を浮かべる王に魔道士は狸爺と内心、思いながら報告を続けた。
「遺言により、勇者様の遺体は魔王城に埋めました。もう二度と魔王が目覚めにようにと」
暗殺が成功した場合、魔王城に埋めたと報告する事になっている。
魔道士から成功した事を告げられた王は一瞬だけ口元に笑みを浮かべたが、すぐに嘆きの表情へと変えた。
「最期まで勇者であろうとしたのか、ふむ立派だ。後に勇者カエデを称える碑を立てようではないか。さて、お主達も魔王討伐の旅、ご苦労であった。明日の夜、本来の主役である勇者はいないが祝賀会を開く。それまでゆっくりと休むが良い」
こうして王への報告は終わり、魔王討伐メンバーはそれぞれ部屋を与えられ、祝賀会が開くまで城内で過すことになった。
その日の夜、弓使いは与えられた部屋のベッドの上で荷造りをしていた。
「他の奴等は呑気だよな~。殺されるかもしれねえのによ」
そんな事を言いながら。
弓使いは楓暗殺の命を聞かされたときから、ある考えを持っていた。
――勇者を殺した事実を隠すために自分達は殺されるのでは? と。
古今東西、口封じのために殺すというのはよくある話。
平和を脅かしてきた魔王を倒した勇者を殺した、そんな事実が公になれば民衆からの反発は避けられない。
だから、殺す。それが一番簡単だから。
弓使いはこのことは他のメンツに伝えず一人で逃げるつもりでいる。
命令を聞いていない騎士は、無事だろう。だけど、魔道士と格闘家は無事じゃすまされない。何らかの方法で殺されるのは確実だ。それでも弓使いは話すつもりはなかった。
金のためにメンバーに入っていたのだ。情すらこれぽっちも持っていない。
それに騎士以外は自分と同じ理由で魔王討伐に加わっている、きっと、報酬を独り占めする気だと嘘を言うなと言われるのがオチだ。
「さて、荷物もまとめたしそろそろ行くか」
弓使いは荷物を持ち、ベッドから飛び降り、窓を目指す。
逃げられないようドアには見張りがいるため窓から逃げるのだ。
鼻歌を歌いながら窓に向かっていると。
「にがなさい」
グイッと後ろから強く引っ張られたせいで後ろから倒れ、ゴンッ! と頭を床に強くぶつけた。
「い、いって~。一体、なん・・・・・・」
何が起きたのか確認しようと動こうとするが勢いよく口を手によって塞がれるような形で床に押さえつけられた。
その翌日、弓使いは遺体となって発見された。
何者かによって焼き殺された姿で。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます