第4話

だからだろうか?



「ヒヒヒ……」



室内に己以外の何者かが存在しているのに、今の間際まで気付かなかったのは。



「ヒェッ!?」



男は不意に気配を感じて振り返った。



背後には闇に溶け込む様な黒衣と、それと相反する銀色の瞳が、腕組みしながらその中年男性を見据えていた。



「なっ……何だお前は! 何処から入ってきた!?」



男は突然の事に素っ頓狂な声を上げるが、それもその筈。室内の内側からは鍵を掛けており、云わば完全な密室なのだから、全く見知らぬ人物が背後に立っている等、混乱するのは当たり前だ。



「己の欲望の為に、他者を食い物にする壁蝨(ダニ)に存在する価値は無い」



その銀色は何が起きているのか分からず固まった表情の男を、まるで虫けらを見ているかの様な瞳を以て、冷たく言い放つ。



それは殺意という激情では無く、本当に道端に落ちてる只の物、もとい虫けらみたいに。



「だっ! 誰!! ムグォッ!?」



男が叫び声を上げきる頃には、既に『雫』の左手がその口を塞いでいた。



「フゴォッ! フゴォオッ!!」



まるで万力に絞められたかの様な圧力に、男は言葉にならない呻きしか上げれず、その瞳は恐怖で見開いている。



本能が突き刺す、迫りくる絶対的な“ある予感”に、躰中のあらゆる体孔からは脂汗が噴き出す様に滲んでいた。

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