もう一度君と恋をしたい

@siroikasumisou

第1話

「ねえねえ昨日のさ、颯のMV見た?マジでかっこよかったんだけど!」

「わかるわかる!サビの部分とかめっちゃ泣けたんだよね!」

『わかるなぁ。私も泣きそうだったもん。』

「そういえばこないだ颯特集が上がってたよねって、えっ!?」

「どしたん?」

「颯が中央公園でドラマの撮影してるって!!」

『まじ!?めっちゃ近くじゃん!!』

「今から行こ!!」

『いいなぁ。私も行きたかったぁ。でも今日は習いごとの日だしなぁ。』


テンションがマックスになった女子高生たちがきゃーきゃー言いながら電車から降りていく。

桐生颯。大人気アイドルグループMT4の中心的存在。普段はクールだが、かわいい一面もあることから今注目度No.1とも言えるくらいの人気だ。また、最近ではドラマやバラエティー番組にも出演し、確実に知名度をアップさせていっている。

そんな彼とは反対に私はただの普通の高校生。だけど、私には大きな秘密がある。それは桐生颯と幼馴染であるということだ。昔はお隣さんでどこに行くのも一緒だった。だが、颯が引っ越してしまってから連絡は途絶え、どのように過ごしているのか全く知らなかった。そんなある日、偶然電車の中で見たのが颯が広告をしているポスターだった。私は行方のわからなかった幼馴染とこんな形で再開するとは思っていなかったのでとても強い衝撃を受けた。そこから颯のことをもっと知りたいと思い、ネットで調べたり記事を読んだりとしているとどんどん颯のファンとなってしまったわけだ。最近アップされた颯の特集記事を見ていると、「次は大橋駅。大橋駅。」と車内アナウンスが流れた。駅から出ると私はまっすぐ目的地へと向かった。


ガラガラガラ。古い扉を開くとそこには優美先生がいた。

「あら、凛ちゃん。今日はずいぶん早いのねぇ。」

「そうですかね。確かにいつもより早いですね。少し早いですけど、もう練習始めてもいいですか?」

「別にそれは構わないわよ。それより凛ちゃん見た?颯君また活躍しているみたいねぇ。」

優美先生は習字教室の先生だ。颯も中1になって引っ越すまで私と一緒にこの教室に通っていたから先生も颯のことを知っている。

「そうなんですよ。今回の写真集もよかったですし、ドラマも最高で!」

「どんどんイケメンになっていくわね、颯君。そういえばこの間教室に来てくれたのよ?」

「え、そうなんですか!?」

「そうそう。サインまでもらっちゃったわ。」

「えぇー。私なんて颯が引っ越して以来全く会ってないんですよ?私も颯に会いたかったなぁ。」

「まあまあ。でもそのうち会えるはずよ~。」

「えっそれってどういう意味ですか!?」

「秘密よ。ひ・み・つ!」

「えぇ、ちょっとせんせい~?教えてくださいよぉ。」

「ほらほら凛ちゃん?練習始めるわよー。」

「先生!話そらさないでくださいよ!」

結局優美先生には話をそらされて颯の情報はつかめないままだった。先生の言ったあの言葉、どういう意味だろう?そんな疑問を抱えながらも私は習字教室を終え、家に帰りついたのだった。


「ただいまー。」

「おかえり。」とお母さんが返す。

「ねえ、お母さん。お隣だれか引っ越してくるの?荷物が玄関のところにたくさんあったけど。」

「えー?知らないわよ。」とにやにやしながらお母さんが言う。

「なんでそんなにやにやしてんの?まあいいや。そのうちわかるか。」

のちに私はこの時お母さんを深く追及しなかったことをとても後悔する羽目になるのだった。

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