第2話

  トリも俺と同じ高校に受かったんだから自頭は悪くなかった筈だ。それと俺の予習ノートの効果もあり、トリの学力は順調に上昇していった。

 トリはやればやる程伸びるタイプだな。もっと教えれば、もっと伸びるだろうな。よし、決めた、土曜日は図書館の自習室で一緒に勉強をしよう。

 休日も一緒に過ごす口実になるとは少しだけ思った。だが決してデートではない。こんなデートが世の中にあってたまるか。

 トリを誘うと、即決でOKを貰った。

 そうだよな、勉強するためだもんな。コレがデートの誘いだったら断わられていた可能性が充分にあっただよな。そう考えるとちょっと複雑だな。方程式よりも複雑な気分だ。


 土曜日、図書館の四階の自習室にて、極小声で勉強を教えた。

 超至近距離の為に、トリの良い匂いが鼻を刺激してくる。

 ヤベエ、女子ってのは皆、こんな良い匂いがするのか? それともコイツが特別なのか?

 トリの横顔を眺めつつ、髪に触れたい衝動を必死に抑え込んだ。


 夕方になり、勉強を終えて、自習を出た。

 二人で並んで歩いていると。

「ブッコロー君は、アレルギーや苦手な食べ物ある? それと好きな食べ物はなあに?」

「苦手な食べ物もアレルギーも無いな。好きな食べ物はフライドチキンとチキンカツだな」

 正直に答えたが、何の為の質問なんだろうな?

「それじゃあ来週は私がお弁当作って来るね。来週もここに来るんでしょう。それとも迷惑かな?」

「え、いいの? 迷惑なんてトンデモナイ。飛んないけど。凄く嬉しいよ。素直にお言葉に甘えさせてもらう」

 なんだコレは夢か? いや夢じゃない。正に天にも昇る気持ちと言うやつだ。


 トリが四階のトイレに寄っているので、一足先に階段を降りて、出入口を出て、外で待っている。

 なんだこの気持ちは。もうトリが待ち遠しくて仕方がない。


『只今、図書館内にて、火災が発生。直ちに避難してください。繰り返します。図書館内にて、火災が発生。直ちに避難してください』

 スピーカーが警告を告げた。

 出入口から複数の人間が走って出てきた。

 トリは、トリは何処だ?

 場所を変えつつ、出入口も見つつ、人々の顔を確認したが、トリの姿は確認できない。

 ひょっとして、アイツ、火災発生時にトイレに居たから逃げ遅れてるんじゃないのか?

 周囲の話から、火元は三階の給湯室らしいと分かった。建物から煙が上がっている。

 この場所には図書館の職員が二十名程と利用客が十名程度、トリは未だに姿を見せていない。

 図書館の地図を脳内に再現させる。

 

 三階の給湯室が此処で、四階の女子トイレが此処だ。煙は通路沿いに階段に沿って上昇するとして、トイレから出たトリが逃げるとしたら…………此処だ、北側のバルコニーだ。


 今、俺が居るのは図書館の建物の南側だ。

 トリ、どうか無事で居てくれ。

 全速力で走って、建物の北側に到着した。

 頭上を見上げると、バルコニーの一番端にトリが居た。

 パンツが見えそう、とか言ってる場合か! 急いで助ける方法を考えないと。

 トリの後方からは煙が上がっている。 

 トリも俺に気づき、泣きそうな表情でコチラを見つめている。

 



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