ブッコローの青春

桃月兎

第1話

 俺の名前はR.B.ブッコロー。真の知を求める者って意味で、母の実家の近所の占い師に名付けられた。そんな名前のおかげかは分からないが、地頭もよく予習復習も要領良く出切るので、成績は大体トップ。特に数学が大得意。俺に解けない方程式は無い。


 高校二年に上がるときにクラス替えがあった。見知った顔も見知らぬ顔も様々だ。

 一人の女子生徒が特に印象に残った。そいつは俺の左隣の席で眠そうにしていて、実際に自己紹介の時も眠たそうだった。

 そいつの名前は【トリ】。


 ニ年生になって一週間が経過した。

 興味本位でトリを観察していたが、奴はいつでも眠たそうにしていた。

 眠たそうに授業を受けていて、教師に当てられても正解は出てこない。

 休み時間も大体寝ている。

 授業後のホームルームが終わると急いで帰路につく。

 昼休み、トリは兵糧丸の様な物を水で流し込み、残りの時間は睡眠時間へと変貌されていた。


※※※兵糧丸とは、丸薬状の携帯保存食のこと※※※


そこまでして、惰眠を貪りたい物なのか? そうじゃないな、そこまでしてでも学校で睡眠時間を確保しなくちゃならない家庭生活なのかもしれないな。


 一年時にトリと同じクラスだった連中から聞いた話を纏めると、こうなった。

 トリの父親が今年の一月に大怪我を負って入院中。トリは家計を助ける為に、週七日のペースでアルバイトをしている。文字通りに寝る間も惜しんで働いている。自宅で勉強する時間も無い生活を送っている。


 成る程な、それじゃあトリがいつも眠たそうにして、授業中も質問に答えられ無いのも当然か。

 俺の頭の良さだって、予習と復習で支えられてるんだから。

 待て待て、週七日って、休みの日が無い計算になるぞ。


 帰宅途中でトリに付いて考えてみた。

 理由は分からないが、アイツの事がやたらと気になる。このままじゃ良くない状態なのは分かってるが、一体どうしたらいいんだ? それともトリにしてみたら、要らぬ大きなお世話か? 方程式が定まらない。


 悩んでいると、天使と悪魔が頭上には現れた。

「トリを助けてあげなさい。情けは人の為ならず、巡り巡って自分に返ってくるもになのです。その時に人の施しに素直に感謝して、自分の過去の行いに自信と誇りが持てるのです」

 天使の言う事はもっともだ。


「トリは金に困ってんだろ、ちょっと金渡せば簡単にエロい事させてくれんよ。そんでその時の動画をネタにして強請っちまえよ。弱者は食いもんにされるのが相場なんだよ。仮に向こうが暴露したって、ボッチの貧乏人と成績優秀で友人の多いお前と、世間はドッチを信じるかは火を見るよりも明らかじゃねーかよ」

 悪魔的な道理だとそうなるのか。


『迷った時は己の名前に恥ずかしく無い行動をしろ』、祖父には何度も言われたな。

 俺はR.B.ブッコロー、真の知を求める者。自身の名前を汚す事は絶対にしない。

 トリの為に出来る事を考えよう。


 学校に着いた、今はホームルーム開始前だ。

 トリに挨拶をして、六枚のルーズリーフを渡した。

「今日の授業でやる所だから。迷惑だと思ったら捨てていいから」

 トリはルーズリーフと俺を交互に見ていたが。

「ありがとう。大切にするね」

 誠実な笑みに、脳を撃ち抜かれた。なんだこの気持ちは? 方程式が成立しない。


 その日から、毎日、トリ用に予習ノートを作成し、教室で朝一番に渡すのが日課となった。


 トリの父親も六月に退院し、仕事へと復帰したので、トリはアルバイトを週二日のシフトに減らした。





 









 

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