十一話 三つコブのラクダ
キャラバンに必要なものってなんだっけ? 何も考えてないあたり、我ながら僕たち舐めてるな。
「ともかく、あんなふうに目立つといいわね」
「けれど、僕たち大してお金があるわけじゃない」
「いいのよ、ラクダの一頭でもいれば華があるってものでしょ?」
「簡単に言うけど、そのラクダはどこから連れてくるのさ?」
「何言ってるのよ。外にいくらでもいるじゃない?」
そう言うと、チューリピアは歩き出してしまった。
ついていけば、町の外へと出ていってしまう。
「ちょっと待ってよ。本当に?」
「そうよ?」
どこまでも広がる砂漠を見渡すと、彼女はまた歩いていく。ラクダはあの色だから、砂に紛れている。おまけに、見つけたからといって、捕まえることができるのかも怪しい。
だけど、チューリピアには迷いがない。
「あ! 見つけたわ」
早速一頭のラクダを見つけると、そこに向かって駆けて行く。馬鹿正直に追いかけていくものだから、すぐにラクダは彼女に気がついて、当然逃げる。
「ちょ! まって!」
しかし追いかけられるラクダが待ってくれるわけもなく、どんどん離れていってしまう。しまいにはラクダは砂の丘の向こうに消えていってしまった。
「ええ、どうして……」
「そりゃそうだろ」
思いつきだけで行っちゃうからこういうことになるんだよ。
「もうちょっと落ち着けよ。ラクダってそんなに大事か?」
「大事に決まってるでしょ! こういうのは形から入るのが大事なのよ!」
ラクダになんのこだわりがあるのかは知らないけれど、もう僕たちには馬がいるから、別にいないと困るわけじゃないんだよなぁ。
チューリピアは諦めずにまた新しいラクダを探しに行く。彼女は砂漠の環境下でも平気だから、元気に探し回っているけど、ぼくはもうしんどい。暑いし、早く屋内に戻りたい。
だけど、それとは逆にチューリピアのテンションはどんどん上がっていく。彼女の踊り子衣装が揺れ、どんどん離れていってしまう。
僕はそれを追いかける気力が無くなってしまい、その場にへたり込んでしまった。這いずって岩陰に入り、背をもたれた。汗がほとほと、流れていく間に冷めていくのが、今は涼しさの頼りだ。こんなところで、どうしてあのキャラバンの人々はあんなにも活気があるのだろうか?
いつの間にか、頭がぼうっとして、何もよく考えられなくなっていた。これはもしや危ないのでは? そんなことを肌に感じながらも、何もできないでいる。ああ、ほら。謎の影が差し込んでくる……。
「……」
「……え?」
それは天からの使いでも何でもなかった。いや、チューリピアにとってはあるいはそうなのかもしれない。
「ラクダ?」
上から僕のことを覗き込んでくるのは、長いまつ毛を揺らすラクダののっぺりとした顔。じっと見てくるから、僕もどうしたらいいか分からない。とりあえず体を起こした。
チャーリピアが追いかけたラクダはすぐに逃げていったのに、こいつは自分から近づいてきた。
……変なやつだな。中身もそうだけど、見た目がなんか変だぞこいつ。ラクダのコブは確か一つか二つだったはず。それなのにこいつは三つあるじゃないか!
ラクダはどうやら野生のようだった。頭を差し出すので撫でてやると、満足したらしく唸った。
「……お前、キャラバンに入ってくれるか?」
言葉が伝わらないはずの相手にそんなことを言うと、やはりラクダは何も反応しない。
そのうち、もう一つの気配がやってきた。こっちはかなりうるさい。
「スペルーー!」
「……どうした?」
彼女は泣きそうな声で駆け込んできた。まあ、予想は簡単にできるけど。
「はぁ、はぁ。ラクダのみんな、全然私に近づいてきてくれないの!」
そりゃそうだろうさ。大声で追いかけてくる人間を待ってくれる奴なんて……あ。
隣にいるこのミツコブのラクダは、チューリピアが来ても逃げない。それどころかずいぶんと余裕があるようにさえ見える。大物なのか、それともただのアホなのか?
「……え? どうしてここにラクダがいるの?」
「え……とね。たまたま近寄ってきたんだよ」
「はぁ? なんでよ! ずるいじゃない!」
「は?」
なぜか彼女は怒り出した。
「私は追いかけても全く近づけないのに、何の努力もせずに待ってただけのスペルにどうしてラクダが近寄ってくるのよ!」
「知らんがな!」
謎の不公平を感じているらしい。チューリピアは弱い力だが、僕の肩を揺すりながら頭をポカポカ叩いてくる。
すると、奥からラクダがのっそりと首を伸ばしてきて、あごをチューリピアの肩に乗せた。
「……え?」
目が合う彼女とラクダ。チューリピアは困惑して数秒固まっていたが……
「なにこの子! 可愛いじゃない!」
と笑顔をこぼした。まったく、さっきまで怒っていたと思えば、今度はラクダにご満悦だ。これじゃあとんだワガママ姫だな。
「よし! この子にしましょう!」
「え?」
「この子を連れてキャラバンを作りましょ! それがいいわ!」
……マジで言ってんの? 意味が分かってない三コブのラクダは、マヌケ顔のまま首を傾げていた。
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