第6話
「丹波ヨシミ……さん、ですか」
「そうじゃ銀竜の。いつもボウズがお世話になっておるの」
「い、いえ……お世話になってるのは自分の方ですので……」
「本当かのう。今でも迷惑かけておらんかの?」
「アンタはいつまでオレ達の母親気分なんだよ」
「何を言う。この仕事を安定出来るようにしごいてきたのは誰のお陰じゃ」
「あれはしごきじゃねぇ、殺しに来てただろ」
「あんなのはほんの遊びじゃ」
「嘘つけ」
ユウスケとヨシミの間では、初対面というのも相まって、緊張でかたくなっているが、一方のシュウジとヨシミの関係はそれなりに親しい仲のようで、まるで親子のやり取りを見ているような雰囲気があった。ヨシミの発言の中にしごいていたと言っていたので、おそらくは師弟関係が一番近いだろう。
「……えっと、代表。こちらの幹部の方と親しいんですね」
「まぁ、な。前の仕事場で元々上司だった人だ」
「代表の元上司なんですか?」
「おうとも。まだかわいいコヤツらを一角の人物として育つまで面倒を見てたのは、ワシじゃからの」
「未だにババァクセェ喋り癖は治ってねぇんだな」
「何じゃ、もう一度しばりあげられたいのか?ボウズも物好きじゃの」
「何も言ってねぇだろうが……」
「あの、こんな場所で話すのも何ですし、とりあえず中に入りませんか?」
「そうだな。そろそろ会議の時間も近いしな」
そう言って、続々と特魔局の会議室に入っていく。
会場はかなり広く、それなりの規模での会合となっているらしいことはわかった。それに、その会場に既に入室していた人たちも、探索者の中でも名を馳せている人たちばかりで、かなり重要度の高いことが裏付けられる。
「既に入られてる方もいますね」
「いやー、スゴイっすね。ここに居る人たち、ニュースとかでよく見る人たちばっかですよ」
「スゴ、サインとか貰おっかな」
「今は止めておきな。空気を乱すのも良くないからね」
「は〜い」
ある程度の人数が入った頃だろうか。司会がマイクを持って登壇する。
「本日は、お忙しい中、急な招集でありながら集まっていただき、ありがとうございます。本日の会議の議題といたしましては、特魔局が事前に収集した情報を公開し、大規模作戦に移行していただきたい旨があり、ご協力の是非を伺いたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします」
司会が話した瞬間、会場の雰囲気が途端に静かになっていた。広い会場の中にはかなりの人数がいるが、響くのは司会の声と静寂だけだった。
「議題の詳細に致しましては、特殊超常管理局執務長官の吾郷マサカツより説明がございます。吾郷長官、お願いいたします」
司会の紹介により、一人の男が壇上に向かう。少し遠目で見ただけだが、威風を感じる偉丈夫であることはすぐにわかった。
「ご紹介に預かりました、吾郷マサカツと申します。どうぞよろしくお願いいたします。では早速ですが、本日の議題に移りたいと思います」
壇上の背後に設置されたプロジェクタースクリーンに、議題が表示された。その画面を、会場の皆は耳を傾けながら真剣な眼差しで見続ける。
「本日は、我々特魔局が事前に収集した情報をもとに、皆様に大規模作戦の参加を助力してもらいたいと思い、緊急で開かせていただきました。その収集した情報というのが、こちらです」
画面に映し出されたものは、以前ユウスケが見た巨大なラーゾ結晶と瓜二つのものだった。
「こちらは、我々特魔局が独自で任務に当たった際に発見したラーゾ結晶です。既にこの会場に参加している方々も目にした人がいるかもしれませんが、現在の研究時点でのデータではございますが、こちらの結晶が、魔生物を産み出していると考えられる黒孔と関連性があると指摘されてきましたが、先日、政府経由にて、この結晶が発生する瞬間が海外の探索者チームによって発覚した映像データが届きました。それがこちらです」
映像を再生すると、今でも突然発生する黒孔が魔生物を産み出しているところだった。だが、再生から1分経たないくらいで、黒孔が妙な形で歪み、縮んでいく姿が記録されており、野球の硬球ほどの大きさになった瞬間、強烈な光と音を放ち、画面にノイズが走った。そのときに大きな揺れと探索者であろう人の驚いた声も微かに聞こえた。それほど大きな衝撃だったのだろう。少しノイズが流れたままだったが、十数秒経った後画面の調子が戻り、黒孔があった場所を映すと、そこには10メートルはありそうな巨大なラーゾ結晶がそびえ立っていた。
その映像を見た人たちには、どよめき立っていた。それはうちらも同様であった。
「……マジ?あんなことあるんだ……」
「すごい音……驚いた……」
「中々興味深い映像だったっすね」
三人は口々につぶやくが、それはユウスケも同意した。それなりに探索者として仕事をしてきたが、このような現象は初めて見た。
「こちらは、オーストラリアの探索者が撮影した映像です。また、アメリカやフランスからの提供された映像やデータにも、こちらの映像と同様の現象が確認されています。ここ日本では確認された映像データなどは存在しませんが、日本でも巨大なラーゾ結晶が確認されている以上、同様の現象が発生していると研究チームは考えております。以前から、森や荒野などで大きな音や謎の揺れがあるとの声が寄せられてきましたが、おそらくは今のような現象が起きていた可能性があると踏んでいます」
会場がざわついていく。ラーゾ粒子や黒孔が出現して二十数年経っている現在、様々な怪現象が起きているのは常だが、これは歴戦の探索者でも驚愕の内容だったのが会場の雰囲気で伝わってくる。
「なお、こちらで確認出来た巨大なラーゾ結晶を研究チームで検査にかけたところ、通常時間経過にて粒子が結合、生成されていくラーゾ結晶よりも遥かに高い粒子濃度が測定されており、人々へ与える危害が甚大になり得ると決断されました。つきましては、この結晶を発生させる前に、この黒孔を塞いでおく必要があります」
会場には更にどよめき立つ。無理もない。現在の定説では、黒孔は時間や場所関係なく発生するものであり、予測地点や発生時間を観測することは事実上不可能とされている。それを無理を承知でやってくれ、と頼み込まれているのが今の状況だ。それはいかに腕の立つ探索者でも困難を極める。
「しかし、皆様のお考えの通り、予測することは現状、どのような機器、能力を行使しても成し得ません。ですから、今現在生成されている結晶を、速やかに処理する必要があります。そちらは別途、特魔局からご連絡いたします。皆様に取り掛かってほしいのは、今から話すものです」
マサカツが一呼吸置き、依頼を述べる。
「皆様には、特魔局が観測した予測地点にて、大規模な浄化作業を行ってほしいのです」
果ての銀竜 みかねりお @MikaneRio143
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