第5話
翌日、事務所に出勤しようとした際、端末にメッセージが入った。シュウジからの連絡だった。
『今日の探索者の案件消化は取り消しになった。その代わり、緊急でデカい会議が入ったから午後にその会場に向かう。全員午前10時までには集合するように』
かなり急いで打ち込んだのだろう。設定してあったフォーマットを使わずにそのまま書き殴ったようなメッセージだった。代表がここまで慌てているのも珍しいと感じたユウスケは、いつも通り、しかし早足で事務所に向かうことにした。
「おはようございます」
事務所に入ると、いつも机で書類と格闘しているシュウジの姿がなかった。どこに行ったのかと周囲を見渡そうとしたとき、後ろから声をかけられる。
「おはようございます、先輩」
「ん?……あぁ、ケント君か、おはよう」
「代表なら外で電話してましたよ」
「そうなんだ。ならよかった」
「何か用事でもあったんスか?」
「いや、朝のメッセージは何だろうと思ってね」
「あー、あれっスか、自分にもきましたけど、大事な中身がわかんないスよ。会議ってありましたけど」
「そうだね。緊急ってあったからなるべく早く送りたかったんだろうね」
「戻ってきたら問い詰めましょう」
「はは、そうだね」
代表が戻ってくるまで談笑していると、二人の女性が事務所に入ってきた。
「おはようございま〜す」
「おふぁ……です」
入ってきた二人は天翼会の探索者メンバーで、渡里ケントと並ぶ問題児三人衆として雇用されている。明るい声色で挨拶したのは朱鷺崎アヤカ。少し伸ばした茶髪をウェーブヘアにしている人で、明るく活発な女性だ。いつも髪や肌の手入れを欠かさず、美容意識が高いことが少々難点で、違和感があるととても気になるらしく、かなりの時間をかけているのだそう。美意識が高いことは誇れることだが、そのために遅れることもしばしば。代表からも、超人としての実力はあるがわがままと言っていた。それに対し、あくびをしながら挨拶したのは笠山ユメノ。こちらは短めに切りそろえた黒髪にゆったりとした表情をいつも浮かべている女性。朝の時間帯はどうも大変らしく、寝起きがとても悪いらしいとはアヤカ談で、その理由は能力にある。彼女の頭部には通常の耳とは別に丸めの獣耳が生えている。ユメノは獣人の複合者であり、その中でも夢を食べると言われる獏の能力を持っている。寝ている人や魔生物限定だが、記憶を読み取り、操作することが可能だという。これにより様々な情報を得ることが出来、かつ取り入れた夢や記憶の内容は吸収して固有のラーゾ塊に魔力として貯蔵することも出来るという。そのためか、彼女は夜間帯での仕事が多い。夜中に受信する情報を無意識に吸収してるらしく、うまく寝付けないそうで、彼女は複合者となってから様々な苦労をしているらしい。このことを察してか代表も強く言わないでいるが、眠っていた方が楽に読み取れるらしく、とりあえず眠るなんてこともあったため、一日中眠っていたなんてことも。代表曰く、持っている能力よりも本人が扱いづらいとの評価。
そんな評価をされているが、渡里ケントも含め優秀な成績を残しており、いつしかその同期三人は問題児三人衆と呼ばれるようになった。いろんな話題が欠かない三人ではあるが、ユウスケにとっては頼りになる後輩だ。
「二人とも、おはよう」
「あ、おはようございますユウスケ先パ〜イ!」
「アヤカさんは明るくていいね」
「ありがと〜ございま〜す!」
「アヤカが朝早く来てるなんて珍しいな」
「ケントに言われたくないんですけど〜?」
「オレはまだ来てる方だから」
「依頼トチったくせによく言うよ」
「トチってねーよ!誰がそんなこと言ったんだよ」
「ふぁ……わたし」
「ユメノかよ……なんでそんなこと言った」
「昨日食べた夢に出てた」
「……依頼者の夢でも食べたのか?」
「面白くて美味しかった……ありがとケント」
「だからトチってねーって」
同期も揃ってにぎやかになる事務所を、ユウスケは傍から見てとても安堵した気分になったとき、電話を終えて戻ってきたシュウジが入ってきた。
「ふぅ、ようやく……お、全員揃ってるな」
「あ、社長!朝の何なんですかあれ!急に来てビビったんですけど!」
「わかった、今ちょうど説明してやるから」
そう言って、シュウジは自身の席についておもむろにパソコンを操作すると、こちらに画面を向けてきた。その画面には、特魔局からの緊急出頭命令と表示されていた。
「出頭……命令ですか?」
「あぁ。なんでも、近日中に発生する現象が特魔局の調査で観測されたらしい。それがかなり危ないモンらしくて、対応出来る人間や事務所に命令が来てるんだと」
「調査って……、もしかして神託のヒト?」
「お、よくわかったなユメノ。もしかして知り合いか?」
「ううん。でもたまに食べる夢に出てくるから」
「あ、でもアタシも聞いたことあるよ。なんか儀式みたいのをやる予知能力だっけ、けっこー長く特魔局に居る人だって」
「へぇ、そうなんだ」
「ともかく、一度特魔局本庁に来てほしいってことだから、全員で行くぞ」
こうして、午後からの会議のためにある程度の事務作業を終わらせてから向かうことにしたため、全員で書類を片付けることとなった。
特魔局本庁。トウキョウ自治区の中心部近くに位置する旧新宿区の都庁近くにその建物がある。かつては都庁に部署があったらしいが、自治区が開拓により広がったことと、業務内容の拡大によって移設され、このトウキョウ自治区の異変を調査する部署である。所属する職員は精鋭も多く揃っており、並大抵の依頼なら特魔局のみで片がつくほど。しかしそれほどの精鋭揃いでも仕事に明け暮れているのは、それだけ異変や依頼が多いことを意味する。
「さて、これから特魔局の職員たちとの会議が始まる。みんな気を引き締めとけよ」
「はい。ですが代表、天翼会が呼ばれたのなら、もしかして暁の明星も呼ばれたと思うのですが」
「まぁ、そりゃあ奴さんは国内トップだし、呼ばない訳にはいかんだろ」
「でもいなくない?」
「まぁ先に入ってるかもな。俺たちも早く中に……」
「んん?誰かと思ったらやさぐれボウズじゃないか」
げ、という反応をしたシュウジは、嫌な顔をしながら声のした方に向ける。すると、多くの職員を連れた年若く見える女性が立っていた。その女性の頭には、特徴的な二本の角が額から伸びている。
「元気にしとったかのぉボウズ。こんな顎髭まで伸ばしよって、似合っとらんぞ」
「うっせぇ鬼ババァ。なんでよりによってコイツに会っちまうんだよ」
「コイツとは言うようになったのぉ。昔は散々かわいがってあげたというのに」
「どこがだ。あんたは本気でやりにいってただろうが」
「はて、どうだったかの」
「……あの、代表。こちらの方は?」
「……む、もしやお主、ボウズのところの銀竜か?」
「あ、はい。そうですが……あなたは?」
「おお、そうじゃ。どうやら新顔もおるようじゃし、自己紹介をせねばな」
女性は咳払いをすると、ハキハキとした声で名のりをあげた。
「わしは暁の明星の本部所属、特一級探索者の丹波ヨシミじゃ!よろしく頼むぞ、天翼会の諸君!」
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