第4話

マグリザードが警戒したのも束の間、目の前の銀竜は木々の隙間を縫うようにして3体のマグリザードが一瞬にして消滅する。その事実に周囲のマグリザードが気づくのには余りにも時間が足りなかった。自らの認知が働く前に銀の拳や蹴りが飛んでくる。5、6、7……周囲の仲間がどんどん減っていくことに焦りと困惑が広がり、退こうとするもの、逆に襲いかかるものまでいたが、ユウスケはそれを軽くあしらうかのように淡々と討伐していく。

(こいつらは確か、フェロモンか何かで意思疎通をとったり仲間を呼ぼうとする……だっけかな。呼ばれる前にもこんなにいたら困るんだけどな)

ユウスケは以前後輩に教えてもらった情報を元にしながら、適切に対処していく。更に言えば、このマグリザードには牙に毒腺があり、噛まれると筋肉や内臓に支障をきたす。これはラーゾ粒子の影響によって発達したものらしいが、適合者ならまだしも、民間人がこれを喰らったらたまったものではない。なるべく民間に被害が及ばないようにと思いながら攻撃を繰り出す。

「これで……最後ッ!」

最後に残されたマグリザードを攻撃し、消滅を確認する。周囲を確認し、消滅を確認すると、討伐された場所に残された結晶を回収する。これはラーゾ粒子に完全に取り込まれた魔生物が生成する物質で、魔生物の核となるラーゾ塊と呼ばれるものだ。魔生物によって大小や色彩が様々で、高値で取引されたり、研究対象ともなる物質でもある。魔生物の研究はこのラーゾ粒子やラーゾ結晶、ラーゾ塊といった固有の物質を中心に行われている。魔生物に対して固有のラーゾ粒子を加えると消滅するといった先人の研究も、偶然採取されたラーゾ塊から判明したものとされている。

「よし、これで全部かな。14個かぁ。それなりにいるなぁ」

採取したラーゾ塊を確認して、小休止。一旦竜化をといて休憩を挟む。

「依頼には討伐ってあるけど、最初からこの数ならさっさと拠点壊した方がいいかなぁ」

魔生物が集まるのはラーゾ粒子が濃い地域に多いのは周知されているが、これは生物的な欲求と似たようなものがあり、固有のラーゾ塊は何も染まっていない、他の魔生物や適合者などから発せられるラーゾ粒子とは異なる無色なラーゾ粒子を吸収することで肥大化し、肉体により定着していく。適合者たちにもこのような塊が肉体に存在し、肉体に定着しながらも超常の力を操れるのは、まさしくその粒子が自分に適合したからである。未だどのような基準で超人と複合者か分かれるかは不明な点も多いが、現在の研究ではそれが定説であるという。

ともかく、ラーゾ粒子の濃度が高い地域には、それを発生させる場所が必ず存在する。その核を叩いてこの依頼は本当の意味で完遂される。そう思うと、あと少しで仕事が終わると希望を見出したユウスケは、休憩を終わらせて濃度が高い方向に向かっていった。

十数分ほど進んでいくと、白い靄のようなものが流れてくる。

(これ……間違いない。この近くに核がある)

靄が濃い方向に向かうと、一際大きいラーゾ結晶が生えていた。そこから湧き水のように粒子が発生されているのが分かるが、それと同時に先程とは比べ物にならない数のマグリザードが居を構えていた。いち早く気づいたマグリザードが周囲に知らせ、皆こちらに顔を向け、ジリジリと近づいてくる。

(この数とあの核を破壊するのは……アレを使うしかないか。あれは破壊力がありすぎるから、余り使いたくないけど、仕方ない)

そう感じた時、数体のマグリザードが襲いかかってきた。瞬時に竜化し、上空に飛び上がる。ある程度の範囲を定め、上空から狙いを定める。心臓が脈打つのを強く感じ、身体中の血液が加速し、熱が口元に収束するのを感じる。直後、息を強く吐くようにして直下に熱を放出する。発せられた熱は、赤い軌跡を帯びて青白く光を発して爆発する。それは半径10メートルに及ぶ大爆発を起こし、結晶ごと魔生物を焼き尽くした。

「……ちょっとやり過ぎたかなぁ」

破壊跡を見るに、ラーゾ塊もろとも焼き尽くしてしまったらしい。だがこれで、魔生物の脅威はひとまず収まったと見ていいだろう。そう判断したユウスケは事務所に帰還することにした。


「……よし、達成届は受理された。お疲れさん」

「ありがとうございます。代表」

結局、事務所に戻った頃には日が落ちていた。他の職員たちもほとんど帰宅している時間だろう。だが、探索者が依頼達成されるには、達成届が受理されなければ意味が無いため、こうして知らせを待っている内に夜になってしまった。

「この最後のやつだけは特魔局から流れてきたやつだからな。向こうの確認も取れなきゃ意味ないにしても、お前さんは待つ必要無かったんだがな」

「まぁ、達成出来た自覚が欲しかったって言ったら笑います?」

「気持ちはわからんでもないけどな」

「そういえば代表は、最後に依頼出たのっていつでしたっけ」

「もう半年は出てないかもな。最近は事務仕事やら他企業との連携会議なんかにも出ずっぱりだったしな」

「久しぶりに自慢の剣を見たいですけどねぇ」

「よせよ、体のスペック的にキツイんだから」

「それでも一回は見たいですね」

「だからキツイって」


「……あれ、先輩?」

声のした方に振り向くと、そこには後輩(問題児三人衆)の一人、渡里ケントの姿があった。

「あぁ、こんにちは。もしかして今から仕事?」

「いえ、今終わって報告しようとしたところなんスけど、邪魔しました?」

「いや、大丈夫。大方終わったよ」

「そうっスか。いやぁスミマセン先輩、遅刻してしまって」

「いいよ、今日も時間以上に働いてくれたんでしょ?なら代表も許してくれるよ。なんせ代表の分まで仕事やってるんだから」

「それは助かるが、とりあえずちゃんと来てくれ。お前はまだ救い様は全然あるから」

「ごめんなさい」

この風景もこの事務所では珍しくない。こうして雑談混じりの場所も個人的に好いているのも含めて、ここが気に入っている。

「にしても珍しいね、こんな時間まで居るなんて」

「いやぁ、依頼の一つに時間指定のものがあったんで、それでここまでやってきたんですよ」

「そう。お疲れ様。代表も、今日はお帰りですか?」

「そうだな、あと少しで帰るつもりだ」

「では、自分も失礼します」

「おう、お疲れ」

「お疲れ様です、先輩」

事務所を出て、疲れた体をほぐしながら、駅に向かって夜の街を歩いた。

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