第62話 入院

「さあ、みんな手伝って!! 王女殿下を中に運ぶわよ!! 我が施設始まって以来の超VIPよ!!」


 リオの号令で、スタッフの数名が礼拝所の中から、長い木の棒と厚い布でできた担架を持ってきて、パルスの横に広げる。

 リオは抱えていたパルスをゆっくりと担架に横たえた。

 体格の大きな男二名が担架の前後を持ち、パルスの体は礼拝所の中に運ばれていく。


 中に入ると、パルスの姿を見て、中にいたスタッフや患者たちがざわつく。

 無理もない。

 まさかこの国の第一王女が、伝染病にかかった平民を大勢収容している施設に運び込まれるなど、誰も夢にも思わなかっただろう。


 運ばれるパルスについていきながら、ライナがリオに話しかける。


「お姫様、どこに入ってもらいます? さすがに他の平民と同じように礼拝堂の床の布団に寝てもらうわけには……」


 この病院は広い礼拝堂の長椅子を全部外に運び出し、その床に100以上の布団を並べて患者を寝かせているといった状態だ。

 後々はベッドを入れて、患者同士の間に仕切りのカーテンをつけたいとリオは考えていたが、まだそこまで手が回っていない。


「奥の司祭様の私室を使わせもらいましょう。パルス王女殿下のためとあらば、司祭様も文句はないでしょう。戻ってくるかどうかは知らないけど……」


 その話を聞いて、パルスが慌てて声を上げる。


「待ってください……私だけ……特別扱いを受けるわけに……はいきません……私も……他の患者と同じところで……治療を受けます……」


 また、このお姫様は面倒なことを……


 リオはため息をつきながら反論する。


「そんなわけにはいかないでしょう。自分のお立場を考えください」


「私が……この施設の治療で……治るということが……この施設の有用性の……証明であり……存続の条件なのです……だから……他の方たちと同じ条件下で……治療を受けなればならいのです……」


 パルスはそう言ってまた強い目でリオを見つめる。

 見つめられたリオはほとほと困り果てた。


 この子、控えめで上品な王女様かと思ってたけど、自分の意見は絶対に曲げないとんでもないわがまま女王だ……


 リオは右手でくしゃくしゃと頭をかき、やけくそで指示を出す。


「出口から一番遠い、南側の角に運んで。とりあえず今は布団に寝かせるけど、あとでベッドを入れましょう」


 リオは考えた。


 このあとパルスにだけベッドが用意されたら、今度は「自分だけベッドで寝るわけにはいかない」と言い出すだろう……

 いい機会だ……

 前から進めたいと思っていた布団の直敷きからベッドへの入れかえと、各患者間の仕切りのカーテン設置を一気にやってしまおう……


 奇しくも、パルス第一王女の入院によって、リオの病院はまた一歩前進することになったのであった。



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