第61話 撃退

「今……なんとおっしゃいました?」


 まるで予想もしなかったパルス王女の言葉に、ずっと余裕の笑みを浮かべていたフランク・バロットの顔が曇る。


「私は……王宮ではなく……この施設で治療を受けるのです……だから……私が回復するまで……査察は延期しなさい……」


 この内容に、筆頭宮廷魔術師のランディー・メンブランも顔色を変える。


「な、何を仰いますか!? このような得体の知れぬところで、王女殿下の治療など!!」


 古くから王族の治療は宮廷魔術師の役割と決まっている。

 それをどこの馬の骨ともわからぬ外の白魔術師にお株を奪われたとなれば、面目丸潰れである。


「私は……この施設を後押しした者として……自身の身をもって……施設の有用性を証明しようというのです……」


「そんな……無茶な!?」


 パルスの暴論に、フランク・バロットはみるみる血相を変えていく。


「私の身に……何かかれば……その時は……査察を行うまでもなく……ここを取り潰せばいい……」


 その内容に、今度はリオまでもが仰天した。


 ちょっと、勝手に何言ってんのよ!?


「ぬぅ、しかし……このようなことを国王陛下がお認めになるわけがございません!!」


「なんと言われようと……私はこの病が治るまで……ここを動きません……父上にも……そう伝えなさい……」


 感染による高熱で、その声は弱々しいにも関わらず、声に込められた意思の強さに、その場の全員が圧倒された。


 このお姫様……

 まったく、無茶を言ってくれる……


 パルスの無茶苦茶な提案に、リオは頭を抱えた。


 パルス王女の回復が芳しくなかったら、もうこの病院は終わりじゃないか……


 この状況を一体どうしようかと困り果てながらも、腕の中にいるパルスと目が合う。


 パルスの目は「大丈夫ですよね? リオさん」と言っていた。


 その目を見て、リオは逃げられなくなった。


 あーっ!!

 もうっ!!


 リオは腹を括って、口を開いた。


「2日っ!!」


 リオは一際大きい声で叫んだ。


「パルス王女殿下についた伝染病は2日で治します!!」


 今度はリオが無茶苦茶なことを宣言し、場はさらに混乱する。


「何を馬鹿な!? 此度の伝染病は若い健康な者でも回復までに1週間はかかっている!! それをたった2日など、戯言もたいがいにしろ!!」


 フランク・バロットは非難の言葉を投げつけたが、リオは涼しい顔で反論する。


「その戯言が真実になるならば、我らの治療が本物であると、何よりの証明になるのではないですか?」


 あまりに自信に満ちた言葉に、フランク・バロットは閉口した。

 そして、隣にいるランディー・メンブランと小声で相談したあと、呼吸を整えて、パルスに話しかけた。


「王女殿下。2日で殿下の病が治らねば、この治療施設を取り潰す。ということでよろしいのですね?」


「ええ……構いません……」


「かしこまりました。国王陛下にもそのようにご報告させて頂きます。私どもは、2日後に殿下をお迎えに上がりますゆえ、どうぞ御自愛下さいませ」


 そんなやり取りを終えたあと、フランク・バロット、ランディー・メンブラン、及び役人たちはその場から退散していった。


 その様を見て、地域住民側は一斉に歓喜の声を上げたのだった。



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