第59話 延期
リオの言葉にフランク・バロットは面倒くさそうな顔をする。
「ほう……理由は?」
「当治療施設がパルス王女殿下の直轄事業になったすぐあとに、パルス殿下には当施設の最高運営責任者に就任していただきました。此度の査察は当施設の存続を大きく左右するものであるため、最高運営責任者であるパルス王女殿下にご同席頂きたいのです」
パルスが最高運営責任者に就任したというのは、今思いついた全くのでまかせだった。
パルスの同席を条件にして時間を稼ぎ、その間に裏付けの書類を適当にでっち上げればいい。
問題はその時間稼ぎをしている間に、なんとかこの状況を切り抜ける根本解決策を用意できるかどうかだ。
「ふむ、そういうことであれば、たしかに王女殿下にご同席頂いたほうがいいかもしれんな……」
フランク・バロットは顎に手をあて考える素振りをする。
が……
「しかし、王女殿下もお忙しい身。ご都合をつけて頂くにも時間がかかろう。査察は先に済ませておいて、その報告書を王女殿下にお目通し頂くようにしよう」
と言って、再び嫌らしい笑みを浮かべた。
リオはぎりっと歯ぎしりをした。
その報告書はほぼ同時に国王にも渡されるだろうことが目に見えていた。
「では、国王陛下の勅命に則り、只今より本治療施設の査察を開始する」
そう言って、フランク・バロットが手を上げた瞬間、その場に透き通った強い声が響き渡った。
「お待ちなさい!!」
一同が声のした方に視線を向ける。
そこにはパルス・アンブロワーズ第一王女が立っていた。
「私は、ここにいます!!」
パルスはそう言いながらはあはあと息を荒い呼吸をしている。
その場にいた住民たちも、役人たちもパルス王女の登場にどよめいた。
そして、それはリオも例外ではなかった。
パルス王女……
ここには来ないでと言ったのに、なんで……
皆が混乱する中、パルスに最初に声をかけたのは、フランク・バロットであった。
「これは、これは、パルス殿下。なぜこのような場所に?」
「この治療施設は……私の直轄事業です……視察に来るのは……当然でしょう……」
パルスの呼吸はまだ整わず、途切れ途切れに苦しそうに喋っている。
「仰せご尤も。では、丁度良うございます。パルス殿下、これより行われる査察にご同席くださいませ」
フランク・バロットはそう言って、恭しく頭を下げる。
そのやり取りを横で見ながら、リオは苦悶の表情を浮かべた。
おそらく、パルス王女はこの査察の件を聞き、大急ぎで駆けつけてくれたのだろう……
だが、このままパルス王女同席の下、査察が行われれば結果は同じだ……
ある程度の口出しはしてくれるだろうが、それがどこまで効力を有するか……
「いいえ……査察は……延期なさい……」
パルスの呼吸は整うどころか、ますます乱れていている。
「延期ですと? 王女殿下、これは国王陛下の勅命なのです。いくら貴方様といえど、正当な理由もなしに延期というのは……」
「理由は……」
パルスの言葉はそこで途切れ、どさりとその場に倒れた。
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