第57話 勅命
リオとライナは、麻黄湯と点滴が入ったリュックサックをそれぞれ背負って、礼拝所に急いでいた。
リオがライナの少し前を走っている。
「ライナ、遅いわよー!!」
リオが振り返り、ライナにそんな言葉を投げつける。
「いや、ちょっと、こっちの方が、重いんスから〜」
ライナは息も絶え絶えに情けない声を上げる。
リオのリュックサックには麻黄湯が入っており、ライナの方には点滴の袋が入っているのだが、点滴の方が嵩があり重いのだ。
礼拝所まであと少し、もうあと100メートルといったところだ。
あれ……
そこでリオは礼拝所の前あたりにたくさの人だかりができていることに気づく。
人だかりは2つのグループが向かい合って言い争っているものだった。
「だから、リオさんが戻るまでは中に入れるわけにはいかない!!」
一方は病院の運営を手伝ってくれている地域住民たち。
「国王陛下の勅命である!! これ以上逆らうならば、反逆罪の容疑で憲兵を呼ぶことになるぞ!!」
もう一方は行政府の役人と思しき男たち。
「この治療施設はパルス王女殿下の直轄事業だ!! 王女殿下は査察をお認めになられたのか!?」
「たとえ王女殿下の直轄といえど、国王陛下の勅命に勝るとでも思っているのか!?」
双方一歩も引かず、口々に言葉をぶつけ合っている。
「国王陛下はつい数日前に、この施設を王女殿下の直轄とお認めになったばかりだ!! お前達が国王陛下の御威光を不当に利用しようとしているのではないのか!?」
「なんだと、貴様!!」
「ストーップ!!」
一触触発、いよいよ殴り合いになりそうなところで、リオが間に割って入る。
「これはいったいどういうこと!?」
リオの登場に双方が一瞬静まったあとざわつく。
住民たちは「リオさん……」「リオ様……」とすがるようにリオの名を呟き、他方役人たちは「リオ・クラテス……」「こいつが……」「異端者め……」と不穏な敵意を放つ。
「おお、戻られたか。これでようやく話が進む」
そんなセリフとともに、役人たちの人だかりから、華美な貴族服を着た恰幅のよい60代の男が前に出る。
その横には灰色の法衣を身に纏ったやせ細った50代の男がいた。
魔法省大臣フランク・バロット……
筆頭宮廷魔術師ランディー・メンブラン……
なぜ、こいつらがここに……
リオは二人の姿を見て波乱の予感がした。
「これはどういうことでしょうか? フランク・バロット大臣……」
フランク・バロットはくくくっ含み笑いをしたあと、喋り始めた。
「いや、なに、ちょっとした査察だよ」
「査察? この施設を? この治療施設はパルス・アンブロワーズ第一王女の直轄事業です。魔法省大臣のあなたでも口出しできないはず。査察なんて、何の権限があって……」
「くくくっ、私の権限じゃないよ」
「あなたじゃない? じゃあ、いったい誰の権限だって言うの!?」
苛立つリオに、フラック・バロットは嫌らしい笑みを浮かべて答えた。
「これは、国王陛下の勅命である」
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