第55話 物量

 この二人はなんで会うたびにケンカするんだろう……

 前世は犬と猿だったんだろうか……


 原因はリオなのであるが、その点をリオは鈍感にも理解していなかった。


「はーい、そろそろストーップ!! 感染者の治療が滞ってて、時間が惜しいんだから!!」


 リオはいがみ合うライナとヘルメス伯爵の間に割って入った。


「すぐにでも薬や点滴を使いたいの。早いところ資機材は運びま……」


 そう言いかけてリオはあたりをきょろきょろする。

 伯爵の周囲に荷物がまったく見当たらないのだ。


「あれ、荷物どこにあるの?」


 リオは若干不安になり、伯爵の顔を見る。


「あー、かなりの量なのでな。全部馬車の中だ」


 伯爵はそう言って検閲待ちの馬車の列を指さす。


「あの列の先頭の馬車?」


「いや」


「え、じゃあ、どの馬車?」


「全部だが……」


 伯爵の言葉に、リオとライナは「へ?」と間の抜けた声を漏らす。


 伯爵が指さした馬車の列は数十台あった……


『え、えええぇぇぇーっ!!』


 リオとライナは声を揃えて絶叫した。


「どうした? 何か問題か?」


 二人の反応に伯爵はキョトンとする。


「いや、問題ってわけじゃないけど、なんでこんな量に……」


 リオの疑問に伯爵は怪訝な顔をする。


「君の希望通りの物を希望通りの数を持ってきたのだか……」


 そう言って伯爵は物品のリストと思しき紙束を差し出してくる。


 その紙束を見てリオは「あ……」と何かに気がついて固まった。

 そんなリオを差し置いてライナがリストをひったくり中身を確認する。


「お嬢……これホントに全部お嬢が頼んだんですか?」


「いや……えーと……ここに来る前は伝染病の病原体が何なのかわからなかったから……細菌とかウイルスとかあらゆる可能性を考えてたら……」


「普通の薬屋の数十店舗分くらいの量ですよ!? 王都中の薬屋でも乗っ取るつもりですか!?」


「いやー……えーと……てへっ」


 リオは舌をぺろっと出して、笑ってごます。


 笑ってごまかしながらも、改めて資材の量に思考を巡らせる。


 若干やりすぎた感はあるけど、これから治療施設を王都全体に展開して、伝染の流行を鎮静化させようと思ったらこれでちょうどいいくらいかもしれない……

 とは、言うものの……


 リオは場所の長蛇の列をしばし眺めたあと、伯爵に声をかける。


「伯爵、関所の検閲はもう終わったの?」


「いや、まだ手続きを始めたばかりだ」


「これだけの量だと関所の検閲に時間がかかるわね。悪いんだけど、今日すぐに必要なものだけ先に持って行ってもいいかしら?」


「ああ、もちろんだ。何が必要だ?」


「点滴と麻黄湯を」


「点滴は1台目、麻黄湯はたしか9台目あたりに入っていると思う」


「ありがとう!! さあ、行くわよ、ライナ!!


「へーい」


 リオはライナを連れて馬車の方へ走っていった。



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