第54話 過保護
リオは右手を大きく振り、にこやかな表情でその男の元に駆け寄っていく。
そして、その後ろを苦虫を噛み潰したような表情でライナがついていく。
リオの声に気づき、男はリオの方を向いた。
歳は50代前半、背が高く、黒い長髪をうなじで束ねている。
衣服は貴族らしい高価そうな生地だが、全体の色がシックで落ち着いた雰囲気だ。
理知的な顔立ちだが、その目はどことなく神経質そうな印象を周囲に与える。
ヘルメス・ジェルマン伯爵。
アンブロワーズ王国の地方貴族にして、錬金術師。
そして、白魔術師リオ・クラテスの良き理解者であり、最大の支援者である。
ヘルメス伯爵はリオの姿を識別し、その名を呟く。
「リオ・クラテス……」
駆け寄ってきたリオはヘルメス伯爵の前で仁王立ちし、開口一番文句を放つ。
「遅いじゃない!! ず~っと待ってたのよ!! もう、薬も機材も全然足りないんだから!!」
「すまない、材料の調達に思いのほか手間取ってしまったんだ。遅くなってしまったが、頼まれた物は全て揃えて持ってきた。それより、リオ・クラテス……」
ヘルメス伯爵はリオの姿を上から下まで見て、この世の終わりのような表情を浮かべる。
「少しやつれたんじゃないか? 食事はちゃんと摂っているか? 睡眠は足りているか? 働き過ぎているんじゃないか? まさか、王都の伝染病にかかったなんじゃないだろうな? だから、あれほど気を付けろと……」
伯爵はまるで実家のおとんの如く、くどくどとリオの体調管理のことを注意する。
はじまった……
伯爵の小言にリオはげっそりした顔をする。
ヘルメス伯爵はリオの良き理解者であり、最大の支援者である。
それはもう自分の娘のようにリオのことを大事に扱っている。
そこまではとてもありがたいことではあるのだが、問題は超過保護なのである。
伯爵はリオの頼みとあればだいたいなんでもやってくれるが、その分久々に会うたびに実家のおとんモードがオンになってしまい、このように小一時間お小言が続くのだ。
「実の父親じゃあるまいし、あんまりお嬢の生活に口出さないでください。キモいっスよ」
いつの間にリオの横に立っていたライナがジト目で口撃をしかける。
「ライナ・ストランド。従者であるお前がもう少し頼もしかったら、私もリオ・クラテスの身を案じて夜眠れなくなることもなくなるのだがな」
「へー、夜じゅうお嬢のこと考えてるんスかー。へー、ほんっとキモいなー」
「ああ、お前のような野犬に等しいごく潰しが日夜リオ・クラテスの傍にいるかと思うと、夜だけじゃなく一日じゅう不安で不安で仕方がないよ」
両者一歩も引かずバチバチと火花を散らす。
ライナと伯爵のいがみ合いにリオはため息を重ねた。
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