第53話 待望
リオの治療施設が、パルス第一王女の庇護下に入ったという噂は瞬く間に王都中に広がった。
それに伴い、治療希望者の数はさらに増え、入院待ちの患者は百人を越えた。
すでに今の礼拝所の規模では対応できなくなっており、リオは二つ目の病院の立ち上げを検討し始めていた。
しかし……
「あああぁぁぁーっ!! 機材も薬も何もかもが足りないーっ!!」
礼拝所の前に建てられた大型テントの下で、リオは資機材や薬剤などの在庫をリストアップした紙を睨みながら絶叫した。
パルス王女の計らいで行政機関からテントを借りることができたので、礼拝所の前にそのテントを建て、現在はそこを病院の運営本部として使っている。
その他、食糧、布団・タオル類(厳密にはそのように使える布製品)、この世界でも流通している日常生活用品など、使えそうなものを行政機関から借り受けていたが、医療器具に代用できるものが圧倒的に不足していた。
特に内服薬と点滴は、かなり温存して使ってきたが、元々リオが持っていた量が数えるほどだったので、とうに使い切ってしまっていた。
「あーっ、もーっ、どーしたらいーのよーっ!!」
リオが頭を抱えて絶叫しているところに、ライナが陰鬱な表情でテントに入ってきた。
「お嬢……」
「今度は何……」
「最悪の事態です……」
「聞きたくない……」
「じゃ、言いません……」
そんな身も蓋もないことを言って、ライナは踵を返す。
「ちょと、ちょと、ちょと……本当に言わないでどうするの!? 聞きたくないけど、聞かない訳にもいかないでしよ!? 何があったの?」
そう言われてライナははぁとため息をついて、再びリオの方に向き直る。
「ヘンタイが来ました……」
「ヘンタイ?……」
リオは最初ライナが何を言っているかわからなかったが、数秒で思考が繫がる。
「変態って……ヘルメス伯爵っ!?」
ヘルメス伯爵とは、リオの医療器具や薬剤調合に協力してくれている地方貴族である。
ライナの話では、ヘルメス伯爵は現在王都の最外層の関所の外側にいるとのことで、リオとライナはその関所に走った。
リオは王都の伝染病治療のためにヘルメス伯爵に大量の医療器具と薬剤を持ってきてくれるよう依頼していた。
病院を開設して以来、リオはずっとヘルメス伯爵の到着を待ち侘びていた。
関所に到着した二人は、簡単な手続きをして外壁の外に出る。
関所の周りには、通過待ちの人々が大勢おり、荷運びの馬車が数十台列をなしていた。
リオはキョロキョロと辺りを見回わし、目的の人物を探す。
伯爵……
どこ……
そして、関所の衛兵の一人と何かしら書類のやり取りをしている背の高い中年の男を見つける。
いたっ!!
リオはその人物に向かって大声で呼びかけた。
「伯爵ーっ!!」
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