第52話 陰謀

 山中でパルスと出会ったばかりのときに、パルスが言っていた言葉をリオは思い出した。


『私は……死を望まれいてる王女なのです……』


『私がしてきたことが兄上を追い詰めているのよ……』


 そうだった……

 王位の跡目争いか何かわからないが、パルス王女は王族内で何か問題を抱えている様子だった……

 おそらくさっきのルイス王子が、話にでてきた『兄上』なのだろう……

 つまりは、パルス王女の政敵……


 リオはその場に座り込んだまま頭を抱えた。


 しまったー……

 そっちには首を突っ込まないでおこうと思ってたのにー……


「リオさん、大丈夫ですか?」


 リオが頭を抱えているのに気づき、パルスが心配して声をかけてきた。


「あ、いえ、なんでもないです!!」


 大慌ててぶんぶんと手を振りつつ、本気で心配してくれているパルスの様子を見て、リオは考えを改める。


 先に巻き込んだのは私たちのほうだ……

 にも関わらず、パルス王女は嫌な顔ひとつせず、それどころか全力で支援すると言ってくれた……

 おそらく私たちが関わったからといって、パルス王女が抱えている問題の助けにはならないかもしれないけど……

 全力で支えよう……


 リオは新たな決意を胸に加え、立ち上がった。




 その後、リオたちを見送ったあと、パルスはすぐに国王に謁見し、白魔術師リオ・クラテスとその治療施設について説明し、自らの直轄事業にすることを願い出た。

 国王は二、三質問をした程度で、パルスの願いをその場で承認した。


 かくして、リオの病院は正式にパルス第一王女の庇護下に置かれたこととなった。




 そして、その夜。

 ヴァリスティア王宮の中央部、ルイス王子の執務室。

 部屋の最奥に設えられた執務机に向かい、ルイス王子は積み上げられた書類に目を通していた。

 そこへ扉のノック音が響き、王子付きの侍女が室内に入ってくる。


「失礼致します、殿下。魔法省大臣フランク・バロット様と筆頭宮廷魔術師ランディー・メンブラン様がお越しです」


「通せ」


「かしこまりました」


 しばらくして、フランク・バロットとランディー・メンブランが執務室に入ってきた。


「遅くなってしまい、申し訳ありません。殿下」


 そう言って二人は頭を垂れた。


「どうなった?」


 ルイスは手にした書類から目を外さず、冷めた口調でそう問うた。


「は、国王陛下はパルス王女の申し出を承認なさいました」


「父上は、リオ・クラテスの治療施設で行われている内容についてどこまでご存知なのだ?」


「その場に居合わせた臣下の話によれば、パルス王女はあまり詳しいお話をなさらなかったようです。おそらく、国王陛下は既存の白魔術の延長くらいにお思いでしょう」


 そう聞いてルイスはニヤリと笑った。


「案の定、墓穴を掘ったな、パルス。このミスは大きなつけを支払うことになるぞ」


「この後はいかが致しましょう?」


「2,3日時間をずらして、父上に進言申し上げろ。リオ・クラテスが一体何をやっているのか……」


「かしこまりました」


 フランクとランディーは再び頭を垂れ、退室していった。


 ルイスは手にしていた書類を机の上に放り出し、背もたれに身を預けて天井を睨んだ。


「パルス、いつまでも好きにはさせんぞ……お前の罪は、必ず償ってもらうからな……」



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