第50話 協力

 この人がこの国の次の王……


 リオは頭の中で情報を整理しつつ、自己紹介の口上を述べた。


「はじめまして、ルイス王子殿下。改めましてご挨拶申し上げます。私は白魔術師のリオ・クラテスと申します。こちらは私の従者のライナ・ストランドにございます」


 ルイス王子は鋭い目つきで、ある話題を切り出してきた。


「リオ殿は、平民街で独自に伝染病の治療をしておられるとか……」


 その言葉にリオはビクリと体を震わせる。


 私達の活動を知っている……


 そこでリオは先程王子に耳打ちした男を見た。


 恰幅のよい60代の男で、ひときわ華美な貴族服を着ている。

 リオはどこかで見たことがあるような気がしていたが、今ようやく記憶が繋がった。


 魔法省大臣……

 フランク・バロット……


 直接面識があるわけではないが、リオがいた白魔術師の養成学校、アルブス・マギ学院の入学式や卒業式などの式典に、毎回来賓として招かれておりその姿を見ていたのだ。


 リオは改めて王子の取り巻きを見回した。

 そこでもう一人知っている顔を見つける。

 灰色の法衣を身に纏った、やせ細った50代の男。


 筆頭宮廷魔術師……

 ランディー・メンブラン……


 こちらも直接面識はないが、学院主催の学術集会のときに特別講演の講師として招かれており、リオも何度か聴講していた。


 その二人の存在を確認し、リオはようやく今の状況を理解した。

 パルス・アンブロワーズ第一王女という強力な味方を招き入れるためにここまでやってきたが、よくよく考えればこの王宮は、魔法省や宮廷魔術師という敵の本拠地でもあるわけだ。


 リオは思考を巡らせながら言葉を選び返答する。


「は、微力ながら病める人々の助けになればと思い、励んでおります」


「心がけは殊勝ではあるが、個人ではままならぬことも多かろう。ちょうどここに魔法省大臣のフランク・バロットと筆頭宮廷魔術師のランディー・メンブランがいる。魔法省及び宮廷魔術師と協力して治療にはあたってはどうか?」


 王子の言葉を受け、横にいるフランクとランディーが心なしかニヤリと笑ったように見えた。

 その様子を見て、リオはぎりっと奥歯を噛んだ。

“協力”といえば聞こえはいいが、要は魔法省と宮廷魔術師の監視下に置かれるということだ。

 リオの治療方法は、既存の白魔術と全く異なるものである。

 魔法省や宮廷魔術師がリオの病院に出入りするようになれば、その方法を異端として見咎められる。

 そうなれば、病院のやり方を無理やり変えさせられるか、下手をすれば解散させられる。


「それは……」


 リオが返答に窮していると、そこにパルスが割って入ってきた。


「その必要はありません!!」



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