第49話 王子

「えーと、いいカンジのとこ申し訳ないんですけど、さっきから言ってるとおり、もう帰らないと……」


 せっかくの感動的な空気のなか、ライナがだるそうにそんな言葉を投げかけてきた。


 コイツは本当にいいところで……


 リオは苦虫を噛み潰したような顔でライナを睨んだ。


「ライナさんの言う通りですね。お引き止めして申し訳ありませんでした。もうビョウインに戻られてください。リオさんの治療を必要としている方がたくさん待っておられるのですから」


 パルスにそう言われて、リオは「そうですね」と言って立ち上がり、改めて頭を下げた。


「今日は本当にありがとうございました」


「いいえ、こちらこそ」


 そんなやりとりをしたあと、リオとライナは部屋の出口に向かい、「外までお送りします」と言ってパルスが付いてくる。

 無論リオは恐れ多いと断ろうとしたが、パルスに押し切られ王宮の出口まで見送られることになった。


 道すがら、パルスはリオに様々な質問をした。

 今までどのようなところを旅してきたのか、どんな病気に遭遇したのか、どんな患者と出会ってきたのか、そして、どのように治療してきたのか。


 二人の話が盛り上がっているなか、進行方向から十数人程の一団がやってきた。

 皆、品質の高そうな衣服を着ており、おそらく国の高官たちなのであろう。

 先頭を歩いているのは20代前半の男で、周囲の者たちよりさらに上質な宮廷服に身を包んでいた。

 銀髪に瑠璃色の瞳で、その目つきは氷のように冷たい。


 その身なり、その容姿を見てリオは王族に近しい身分に違いないと直感した。

 そう思っていた矢先、隣を歩くパルスが曇った声で呟いた。


「兄上……」


 その一言を聞いてリオは慌てた。

 パルスの兄ということは、王族に近しいどころか、パルスよりも王位継承順位が上の王子ということだ。

 急いで通路の脇に退き、跪礼の姿勢をとる。

 が、またもライナがぼーっと突っ立っているので、大慌てで頭を掴んで同じ姿勢を取らせる。


 王子は、パルスのことを気にかけようともせず、通り過ぎかけたが、見慣れぬリオとライナの姿に気づいて立ち止まった。


「パルス、そちらの方々はお前の客人か?」


 王子は冷めた口調でそう問うた。


「はい、白魔術師のリオ・クラテスさんとその従者のライナ・ストランドさんです。先日、山中で暴漢から助けて下さったんです」


 その名を聞いて、王子の横に立っていた中年の男がヒソヒソと王子に耳打ちした。


「ほう……」


 その内容を聞いて、王子はしばし逡巡したあと、急に作ったような笑顔を浮かべた。


「はじめまして、リオ・クラテス殿。大切な妹を助けて頂いて、本当に感謝している」


 王子はそう言って軽く頭を下げたが、リオはどことなくその声、その口調に心がこもっていないように感じた。


 リオの不審感をよそに、王子は自らの名を名乗った。


「私はルイス・アンブロワーズ。この国の第二王子にして第一王位継承者だ」



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