第48話 約束

「ライナ……」


 リオは「いいところでコイツは……」という顔でライナを睨みつける。

 対するライナはいつもの気だるげな様子で、右手でぼりぼりと頭を搔きながらめんどくさそうに喋り始めた。


「考えても見てくださいよ。今、あのビョウインには伝染病患者がたくさんいて、その上周辺の地域からも続々と患者が集まってきている。つまり、とても伝染病をもらいやすいところだ。そんなところにお姫様を連れていって、万一お姫様が伝染病にかかったら、いったいどうなると思います?」


 そう言われて、リオははっとした。


 一国の王女を伝染病にかかりやすいところに連れていき、みすみす感染させたとなれば、リオは国から責任を問われる。

 下手をすれば、国王から直々に咎を受けかねない。リオだけではない。直接原因となったリオの病院は……


 リオは乾いた喉から声を絞り出した。


「潰される……」


 それはダメだ!!

 あそこに居るのは王都の患者のほんの数十分の一でしかない!!

 まだこれからなのだ!!

 ここで終わるわけにはいかない!!


 額を右手で押さえ、必死に考えを巡らせるているリオに、パルスは恐る恐る声をかけた。


「リオさん……」


 リオは数秒考えたあと、パルスに申し訳なさそうな顔を向けた。


「すみません、パルス様。パルス様のお気持ちはとても嬉しいのですが、今はまだ叶いません」


 リオの作った病院は、この世界の中で異質な存在であり、何か問題が起こればすぐに排除されてしまうだろう。

 そんな状態ではパルスを迎え入れられない。


「そうですか……」


 リオの言わんとすることをパルスも察し、歯がゆそうな顔で俯いた。


 どんよりした空気がその場に立ち込めたが、そこでぱっとリオは笑顔を見せた。


「でも、私達の病院はこれから少しずつ強くなっていきます!! いずれは、この王都ヴァリスティアになくてはならない存在だと、皆が認めるようになるでしょう!! その時が来たら、必ずパルス様をお迎えに上がります」


 そう言ってリオは、大仰な仕草でパルスの前に跪いた。


「ですから、その日が来るまで、パルス様には我々の後ろ楯となって頂きたいのです」


 そして、右手をパルスに差し出した。

 パルスは期待に満ちた笑顔を浮かべ、リオの手をとった。


「あいわかりました。この私、アンブロワーズ王国第一王女パルス・アンブロワーズは、その権限の全てもって、リオ・クラテスの治療施設“ビョウイン”を全力で支援します」


 その言葉にリオは身を震わせ、心の底から感謝した。


「ありがとうございます!!」


 かくして、リオは自身の言葉どおり、この国で最も頼もしい味方を手に入れたのだった。



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