第41話 器具

 リオはパルス王女から様付けで呼ばれたことに戸惑った。


「王女殿下、私のような一介の白魔術師にそのような敬称など.........他の者に聞かれては殿下の威信に関わります。リオとお呼び下さい」


 リオの申し出に、パルス王女はふふふと笑って言葉を返す。


「ならば、かわりに私のことも、王女殿下ではなく、パルスと呼んで下さいますか?」


 また無茶なことをとリオはため息をつく。

 王族を呼び捨てなど、いくら王女本人が良いと言っても官憲に聞かれれば、不敬罪でしょっぴかれかねない。


「では、私は王女殿下のことを『パルス様』とお呼び致しますので、殿下は私のことを『リオさん』とでもお呼び下さい」


 リオの折衷案にパルス王女は頷いた。


「そうですね。そのくらいに留めておかなければ、かえってのお立場を悪くしてしまいますね」


 なんとか落ち着くところに着地し、リオは息をついた。


「さて、そろそろ本題に入りましょう。リオさん、先日は助けて頂いた上、今日は贈り物まで頂いて本当にありがとうございました」


 部屋の中央のテーブルの上にリオが贈った木箱が置かれており、パルス王女は箱に手を携えた。


「ですが、針と糸はともかく、あの二つの器具は見たこともないものでした。私はあれが何なのか知りたくて居ても立ってもいられなくなり、失礼かと思いましたが、このように貴方を呼びつけてしまったのです」


 パルスの話に、リオはニヤリと笑みを浮かべて答える。


「パルス様はあれがどう使う物かすでにお気づきになっておられるのでは?」


「なんとなくは想像がついていますが、実際にどう使うのかご教示頂きたいのです」


「口で説明するよりもお見せした方が早いと思います。もし宜しければ、お贈りした品を使って、今この場で実演させて頂しても宜しいでしょうか?」


「ええ、是非」


「かしこまりました」


 リオは鞄の中から小さなクッションのような綿の詰まった布袋を取り出した。


「失礼致します」


 リオはそう一言断って立ち上がり、テーブルまで歩き、箱の中の器具を手に取る。


「こちらが持針器じしんき、こちらが鑷子せっしという器具で、傷の縫合に使うものです」


 パルス王女は「やはり」という顔で頷く。


「持針器は針を掴む器具で、鑷子は針を差し込むときに皮膚を押さえつけたり、戻ってきた針の先端を掴んだりするのに使います」


 リオは刃のないハサミのような構造の持針器を持ち、持針器の先端を広げ、針の後方、穴の手前で針を掴んだ。

 次に、糸を手に取り、糸の先端を持針器を持った手の親指で持針器に押さえつけ、糸の幹を針の後方に押さえつける。

 すると、糸はするりと針の端をすり抜けて、いつの間にか穴の中に納まっていた。


 パルスはまるで手品を見せられたかのように目を丸くした。


「これは.........いったい、どうなっているのですか.........」



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