第39話 贈物

 アンブロワーズ王国首都ヴァリスティアは王宮を中心に三層構造になっていた。

 最外層は平民、中間は貴族、そして中心部が王族の居住区画という区分けになっており、それぞれの境界は高い壁で隔てられていた。

 区画同士の出入り口は数か所しかなく、関所となっており、貴族区画と王族区画に入れるのは、それ相応の身分の者か、貴族・王族の直属の使用人に限られていた。


 この世界では、魔術師は下級貴族相当の地位であり、貴族区画まではリオの白魔術師資格で入ることができた。

 問題は王族区画。

 白魔術師の資格を持っていても、王族から直々に招かれたわけでもなければ立ち入ることは許されない。


 リオとライナは王族区画の出入り口の関所に来ていた。


「で、どうするんスか? 普通には入れないっスよね?」


 関所を警備する兵士たちを見ながら、ライナが呟く。


「そのために、長にコネを作ってもらったのよ」


 リオは「ちょっと待ってて」と言って、警備兵のところまで歩いていき、二言三言話したあと、長径20cmほどの細長い木箱と、金貨1枚を渡した。

 兵士は満足そうに頷き、木箱を持って関所の奥へ去っていった。


 そんなやりとりを終えて戻ってきたリオにライナは疑問を投げかける。


「何を渡したんスか?」


「ちょっとした贈り物よ」


 リオはムフフフと含み笑いをする。




 リオが兵士に渡した木箱は、王宮付きの侍女に渡され、渡された侍女は自分の主のところへ持っていった。


「姫様、失礼致します」


 侍女は主の部屋をノックし、そう言って室内に入った。


 広く天井の高い部屋。

 部屋の造りは豪奢でありながらも上品で、最高級の調度品を設えられている。

 そんな部屋の中央にその人物はいた。


 銀色の髪に瑠璃色の瞳。

 まるで妖精の女王のような美しさ。


 アンブロワーズ王国第一王女、パルス・アンブロワーズである。


 パルス王女はテーブルに向かって座り、本に目を通しながらその内容を紙に書きだしていたが、手を止め、侍女の方を見た。

 侍女は手に木箱を持っていた。


「何なの、それは?」


「姫様への贈り物にございます」


「贈り物? どなたから?」


「リオ・クラテスという白魔術師さまにございます」


 その名を聞いて、パルス王女は慌てて侍女に駆け寄り箱を受け取った。

 箱は質素ながら装飾が施されており、縦横にひもで結ばれていた。

 王女はひもをほどき、ふたを開けた。


「これは..........」


 そこに入っていたのは、二つの金属性の器具と針と糸だった。

 器具の一つはピンセットのような形で、もう一つは刃のないハサミのような形状で、針は半円状に曲がったものだった。


 王女はそれらの器具を手に取りまじまじと見た。

 まるで見たこともないものだったが、王女は隅々まで観察しているうちに、これらがどういう目的の器具なのか直感的に理解した。


 王女は侍女に向き直ってこう言った。


「これを贈って下さった方を今すぐここへ!!」



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