第36話 隔離
ゾーニングとはある空間を用途に応じて分けることであり、感染症におけるゾーニングとは、病原体によって汚染されている区域と、汚染されていない区域を区分けすることである。
感染症病棟では病室など患者のいるスペースをレッドゾーン、それ以外の区域をグリーンゾーンといったふうに区分する。
レッドゾーンとグリーンゾーンの移行区画をイエローゾーンと区分けされることもある。
大事なことは、病原体をレッドゾーン内に封じ込め、グリーンゾーンを病原体がいない状態に保つことである。
こうすることで、病原体に汚染された人や物品の動きを制限でき、感染拡大を防止することができる。
リオは壁に模式図を書いて、住民たちにゾーニングの概要を説明した。
「感染者を一箇所に集めましょう」
リオはこの周辺地域を感染症病棟に見立てて、レッドゾーンとグリーンゾーン分けようと考えたのだ。
煮沸した水による手洗いが全家庭で難しいのであれば、レッドゾーンの出入り口だけでも徹底する。
レッドゾーン内で手袋を着用するようにできればより望ましい。
「そのためには、どこか感染者をまとめて治療できる場所が必要なのですが.........」
リオにそう言われ、長はしばらく考えたあと答える。
「この地域には古い礼拝所があるのですが、中の長椅子を外に出せば、数十人は寝かせられるかと」
礼拝所と言われてリオは顔をしかめた。
おそらくこの国の国教であるノルディック聖教の礼拝所であると思われるが、当然礼拝所の管理者たる司祭がいるはずだ。
「司祭様は承諾されますでしょうか?」
リオの危惧に長は忌々しそうにため息をついた。
「伝染病が流行り始めたころ、司祭様は伝染病の収束を祈るために聖地に行かれるといって早々にいなくなってしまいました」
長の口ぶりからして、おそらく伝染病の収束を祈るためというのは方便で、身の安全のために王都の外へ逃げ出したのだろうと、リオは察した。
「では、司祭様には申し訳ありませんが、遠慮なく礼拝所を使わせて頂きましょう。礼拝所の中を空にして、そこに患者を集めましょう。それからすでに感染して運良く治ったという人はいませんか?」
「数人おりますが、その者たちが何か?」
「感染症に一度かかると、免疫と言って二回目がかかりにくくなる防御能力が備わります。その方たちには礼拝所の中で患者の看護を手伝って頂きたいのです」
リオがそう言うと、住民たちの中からその数人が名乗り出た。
「喜んで協力します!!」
「俺も!!」
「私も!!」
リオはその既感染者たちに深く頭を下げて礼を言った。
感染者の看護は危険な仕事だ。
いくらかかりにくいと言われても、普通は「はい、そうですか」とすぐに納得できるものではない。
リオを信頼してくれている証拠だった。
リオはこの信頼に応えるためにも、なんとしてもこの地域からインフルエンザを一掃しようと固く心に誓った。
「では、さっそく取りかかりましょう!!」
リオの掛け声で住民たちは一斉に動き出した。
かくして、街の一区画まるごとを巻き込んだ一大ゾーニング作戦が開始されたのであった。
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