第34話 宣誓
「俺は、リオ姉ちゃんを信じる!!」
住民たちの誰よりも大きな声が、リオを疑う野次を一瞬で鎮めた。
声の主はオットーだった。
「俺の父ちゃんは良くなってるんだ!! みんなもわかってるだろ!? 魔法省の護符も薬草も全然効かないって!! その上、税金はどんどん取っていく!! リオ姉ちゃんは俺たち家族に何も求めていない!! なのに、必死で父ちゃんを治してくれた!! 俺は魔法省なんかよりリオ姉ちゃんを信じる!!」
住民たちはしばし沈黙していたが、徐々に「たしかにそうだ」「魔法省がやってることは全然役に立たない」「これでこの上税金取られたら、伝染病じゃなくて飢えで死んじまう」と、リオ支持に傾いていく。
そんな中、この場所を提供してくれた老人が一歩前に出た。
「白魔術師さま、失礼を承知でお伺いします。我々はあなた様を信じてよいのでしょうか?」
「もちろんです。知恵の神アイネシア様に誓って、私は.........」
そこでリオは言い淀んだ。
アイネシアはこの世界の魔術師たちがあがめる神だ。
リオは今、この世界の魔術師たちの論理を否定しようしている。
『知恵の神アイネシアに誓う』というのは、リオにとってもはや誠実さの証明にならない。
リオは自嘲めいた笑みを浮かべたあと呟いた。
「私は.........私の遠い故郷の神々に誓います.........」
「故郷の神々?」
リオは両手を広げ、天を仰いだ。
そして、大きく息を吸い込み、今までで一番大きな声を発した。
「『医の神アポロン、アスクレピオス、ヒュギエイア、パナケイア、および全ての神々よ!! 私自身の能力と判断に従って、この誓約を守ることを誓う!!』」
聞いたこともない神の名前であったが、住民たちはリオの凄まじい気迫に圧倒された。
「『自身の能力と判断に従って、患者に利すると思う治療法を選択し、害と知る治療法を決して選択しない!!』」
紀元前4世紀ギリシア、後の世に“医学の父”と称される偉大な医師がいた。
その名をヒポクラテス。
彼が残した“ヒポクラテスの誓い”は医師の医療倫理についての宣誓文であり、その理念は時代の流れの中で形を変えながらも、現代の医師たちに受け継がれている。
リオが叫んだのは、その“ヒポクラテスの誓い”の一節であった。
無論、聞いている住民たちはこの宣誓の意味を理解できるはずはなかった。
だが、リオの医師としての覚悟を全力で表したこの宣誓は、言葉の意味を超えて、住民たちの心に訴えかけていた。
水を打ったように静まり返っていた静寂を破ったのは、オットーだった。
「リオ姉ちゃん.........なんかよくわかねーけど.............かっこいいー!!」
そして、住民たちの中からぱらぱらと拍手の音が起こり、徐々に大きくなり、やがてリオを称える大きな歓声となった。
リオは心の中で呟いた。
これが.........革命の始まりだ.........
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