第32話 認識

 リオとライナがそんなやり取りをしながら、近所を一周して、オットーたちの家にもどってきたところ、家の周りに人だかりができていた。

 その中心にはオットーがおり、人々に対して熱弁をふるっていた。


「本当だって!! もう死んじゃうかと思ったのに、一晩で喋れるくらい良くなっちゃったんだぜ!!」


 リオの予想通り、早くもオットーが周辺住人にリオの実力を吹聴してくれていた。

 よしよしとリオは満足気な笑みを浮かべるが、そこであることに気付いた。


 喋れる..........


 リオはオットーたちにオラフがとは言ったが、ようになったとは言っていない。


 さては........


 リオは人だかりをかき分けて、ずかずかとオットーに近づき、後ろ襟を引っ張り上げた。


「な、なんだよ!? リオ姉ちゃん!?」


「オットー、あんた、オラフさんの寝てる部屋に入ったわね?」


 と、ジト目でオットーを睨み、オットーはギクりと縮こまった。


「あれだけ、伝染病が伝染るかもしれないから絶対に部屋に入らないようにって言ってあったのに!!」


 リオが怒鳴りつけると、オットーは開き直って反論した。


「だって、良くなったんだったら父ちゃんの顔を見たいじゃないか!? なんで部屋に入っちゃいけないんだよ!?」


「だから、それは.........」


 そこまで言いかけてリオは言い淀んだ。


 そうか..........

 そこら辺のこともわかってないんだよね..........


 この世界の人々も、伝染病は近くにいると伝染りやすいということはなんとなく認識しているが、あくまでなんとなくなのだ。

 その感染様式が、空気感染なのか、飛沫感染なのか、接触感染なのかといったこともわかっていないし、そもそも感染症という概念自体が曖昧なのだ。


 治療のことばっかり考えてたけど、その前にやらなきゃいけないことがある..........


 リオはオットーを掴んでいた手を放し、人々の方に向き直った。


「皆さん、私は白魔術師のリオ・クラテスという者です!!彼の言う通り、私は今、彼の父親の治療を行っています。幸い治療は効いてきており、病は快方に向かっています!!」


 その言葉に、一同は歓声を上げた。

 皆口々に「俺の妻も治してくれ!!」、「私の子供も治してほしい!!」と叫ぶ。


「お任せください!! 人の為すことゆえ絶対の成功はありませんが、この身の全てを持って、皆さんのご家族の治療にあたります!!」


 一同の歓声はさらに大きくなった。


「ですがその前に、皆さんにもご協力頂きたいことがあります!!」


 話の切り替わりに一同は、なんだ、なんだとどよめく。


「敵を知り己を知れば百戦危うからず!! 遠い遠い私の故郷の言葉です!!」


 そう言ってリオは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「皆さんには、を知って頂きます.........」



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