第30話 麻黄
「まおう?」
初めて聞く単語に、ライナはいつもの如く顔に疑問符を浮かべる。
「そう、
麻黄湯とは、漢方薬の一つであり、成分として麻黄、桂皮、甘草、杏仁が含まれる。
桂皮と麻黄には炎症誘発物質の産生抑制の効果が、杏仁と甘草には免疫賦活作用があることが報告されており、風邪やインフルエンザの治癒を促進する。
日本にでは麻黄湯はインフルエンザに保険が通っており、タミフルなどの抗インフルエンザ薬に次いで広く使用されている。
この世界でリオの知識と技術だけで抗ウイルス薬を作ることは不可能であったが、この麻黄湯のような漢方薬を調合することは、原料となる植物を見つけ出す困難さはあるものの可能なことであり、リオはすでに数十種類の漢方薬を再現して実用化していた。
リオはライナに麻黄湯の概要を説明したあと、隣室に移り、オラフが回復傾向であることを家族達に告げた。
オットーは大喜びし、母親も涙を流して喜んだ。
リオとライナは、一晩の看病の労を癒やすため、いったんオットーたちの家から出た。
二人ともマスクと手袋を外し、深呼吸をして背を伸ばした。
「しかし、お嬢。これからこんなことを片っ端からやってくんスか?」
ライナがげっそりした顔でそう言った。
王都の人口は3−4万人と言われており、その中で10人に1人が伝染病にかかっていると言われている。
つまり、患者は3-4000人いるということだ。
オラフ一人でもここまで手間と時間がかかっているのに、リオとライナだけで王都の患者全てを治療するのは不可能だ。
それに器材も薬も全く足りない。
「まずは実績作りよ。オラフさんが完治すれば、オットー達家族がこの周辺に私たちのことを話してくれる。そしたら、自分たちも治療してほしいって人が現れる。この地域の人たちを何人か治療していけば、私の手法が確かなものだと理解してもらえる。その過程で徐々に患者本人や患者の家族に私の知識と技術を伝授していく。この地域の患者を激減したら、その噂は王都じゅうに広まる。別の地域からも、治療してほしい、治療技術を教えてほしいって人が殺到してくる。そのあたりのタイミングで国が協力してくれるようになったら、なおいいんだけど.........」
リオがつらつらとこのあとの戦略を説明するが、ライナの不安はまだ拭えない。
「器材はどうするんスか? 点滴も薬も残りそんなにないでしょ?」
「そっちに関してはヘルメス伯爵を呼んである。彼ももうそろそろ王都に来るころよ」
その名を聞いて、ライナの顔が一気に真っ青になる。
「あの変態を!? 何考てんスかお嬢!?」
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