第29話 薬草
その夜、リオとライナは交代でオラフの看病にあたった。
点滴の他に、濡れた布を額、脇、股にあてる、部屋でお湯を沸かして部屋を加湿する、といったことを行った。
そして、夜が明けた。
リオはオラフに声をかけた。
「オラフさん、ご気分はどうですか?」
オラフはかすれた声で答えた。
「はい.........かなり楽になりました.........」
オラフの応答に、リオは安堵した。
「よかった。薬は飲めそうですか?」
「はい........なんとか、飲めると思います.........」
リオは鞄から紙に包まれた粉薬を取りだした。
「オラフさん、最初からご説明します。今回の伝染病はウイルスという目に見えないほど小さな生物が体内に侵入することで起こっています」
ウイルスは自己増殖能力を持たないため、元の世界ではウイルスを生物とするか非生物とするか意見が分かれているところではあるが、そんなことまで言い出したらとても理解しにくくなるので、ここでリオはあえて“小さな生物”と説明した。
「この薬は、ウイルスを直接やっつける効果はありませんが、体のウイルスに抵抗する力を高め、治りやすくなります。この薬は既存の白魔術で扱っている薬草とは異なるものですが、植物から作っているという点は同じです」
リオは白魔術師として、この世界の薬草の成分にも精通している。
そして、その正体は元の世界でいうところのハーブと同じようなものだった。
ハーブの中には確かに健康によいものもあるが、インフルエンザウイルス感染症に直接的な効果を発揮するほどのものはない。
「ですが、今回のウイルスに対してはこの薬の方が圧倒的に効きます。副作用はほとんどありません。飲んでいただけますか?」
オラフは迷わずうなずいた。
「もう死を覚悟していたのに.........あなたの治療のおかげすでに良くなってきている..........私はあなたを信じます........」
オラフはよろよろと体を起こし、薬を受け取り、包み紙を開いてさらさらと口に含んだ。
すかさずリオがコップに入った水を渡し、オラフは一気に呑み込んだ。
「これを1日3回飲んでいただきます。点滴も効いていますし、明日には食事も摂れるようになると思います。あとは、今まで通りゆっくり寝て休んでください」
「ありがとうございます.........」
オラフは深々と頭を下げたあと、再びベッドに横になった。
「今の病状を奥さんと息子さんに伝えてきますね」
リオがそう言って立ち上がるが、回復に拍車がかかったのかオラフはすでに寝息を立て始めていた。
オラフが寝ているのをこれ幸いと、ライナがリオに小声で話しかけた。
「なあ、お嬢。あの薬、なんなんだ?」
ライナの問いに、リオはむふふふと満面の笑みで答えた。
「まおうよ........」
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