第27話 犯人
リオは、何か手がかりがないかと、前世での感染症診療のことを思い出していた。
リオが思い出したのは、とあるウイルスの世界的流行のことであった。
未知のウイルスの出現に一般市民も医療現場も大混乱だった。
一番最初に困ったのは、診断のための抗原検査やPCR検査が一般に普及する前、ただの風邪とすらも区別がつかなかったことだった。
リオは悔しかった。
自分たちが診断のためにどれほど検査機器に頼っているかを思い知らされたのだ。
リオは自嘲気味にため息をついた。
よく考えたら、私たちはインフルエンザですら抗原キットで検査しないと..........
リオの思考はそこで止まった。
あることを思い出したのだ。
ある..........
あるじゃないか!!
あるウイルスの特徴的所見が!!
「ルクス」
リオが呪文を唱え、右手に光球が現れる。
「オラフさん、すみませんが、もう一度のどを見せてください」
オラフの口を開けさせ、口腔内に光を当てる。
リオは「たのむ、見つかってくれ」と祈りながら口の中を覗き込んだ。
リオが見ようとしているのは、目視できるのどの一番奥、咽頭孔壁だった。
だが、舌が視界を遮って全く見えない。
「オラフさん、苦しいところすみません。口をもう少し大きく開けれますか?『あーっ』と声をだすようにして」
オラフは声は出せなかったが、ゆっくりと口を指示されたように動かし、のどの奥が開く。
のどの奥が魔法の光に照らされ、目的の咽頭後壁がリオの視界に入る。
見えた!!
リオは咽頭後壁を目を凝らして観察した。
そこには、大きさ3-4mmの半球状で赤く半透明な、まるでイクラのような濾胞が何個もあった。
あった!!
「ありがとうございます。もう口を閉じてもらって大丈夫です」
リオはそう言って、魔法の光を消し、立ち上がる。
そして、天を仰いで歓喜の笑みを浮かべた。
勝てる!!
これなら勝てる!!
抗ウイルス薬がない以上、他のウイルスなら対症療法だけで闘うしかない!!
だけど、コイツが相手ならば、あの薬が効く!!
「お嬢、何かわかったのか?」
何かを悟り勝ち誇るリオにライナが問いかけ、リオは満面の笑みで答えた。
「ええ、敵の正体がわかったわ」
「本当か!?」
「ええ、咽頭後壁っていうのどの一番奥に赤い半透明の粒がたくさんあった。この所見はあるウイルスの感染に特徴的な所見なの」
「ウイルス?」
初めて聞く単語にライナは首をかしげる。
「えーと、ウイルスを詳しく説明すると長くなるから、簡単に言うと伝染病を起こしてる犯人ってところね。で、ここからが結論。この赤い半透明の粒の名前は“インフルエンザ濾胞”。つまり、この伝染病の犯人は..........」
リオはオラフの喉元を指さしながら、その名を口にした。
「インフルエンザ!!」
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