第19話 症状

「白魔術師.........」


 少年はリオの言葉を反芻し、リオはこくりとうなづいた。


「私だったらあなたのお父さんの病気を治せるかもしれない。だから、私たちをあなたのお父さんのところに連れて行って」


 リオは少年に優しく語り掛けるが、少年は疑いの眼差しを返す。


「できんのかよ、そんなこと? 国の偉い魔術師たちの回復魔術や薬草も全然効かないのに.........」


「大丈夫。あのボンクラたちと違って、私は天才だから」


 リオの発言に、後ろでライナが「あー、また物騒なことを.........」という顔をしている。


「ま、初対面の人間に言われても信じられないでしょう。だから、お金は一銭ももらわない。これでどう?」


 少年はまだ半信半疑だったが、お金をとらないんだったらと渋々うなずいた。




 リオとライナは少年に案内されて、少年の家に向かった。

 道すがら、遅ればせながら互いの自己紹介をした。


「私はリオ・クラテス、こっちはライナ・ストランド。あなたは?」


「オットー」


「オットーね。よろしく」


 リオはオットーににっこりと微笑んだ。

 言動や素行とはかけ離れたリオの上品で美しい笑顔に、オットーは少し顔を赤くしてそっぽを向いた。


「それでね、オットー。家に着くまでにお父さんの症状をある程度知っておきたいの。覚えている範囲でいいから最初から教えてくれる?」


 そう言われて、オットーは父親の経過を話した。


 ことの始まりは3日前。

 仕事から帰ってきたときに喉の違和感、体の怠さを感じており、翌朝から高熱がでてきた。

 それからすぐに、鼻水、咳、痰などの症状もでてきた。

 高熱と倦怠感が特に激しく、オットーの父親は半日で動けなくなったそうだ。


 それらの症状は、リオが事前に噂で聞いていたものばかりだった。


 いわゆる感冒症状.........

 呼吸器感染症なのは間違いない........

 それも上気道.........

 ただのウイルス性上気道炎.........

 いや、結論を出すのは早い.........

 初期症状が感冒様の感染症は山程ある.........

 やはり、もっと情報を集めないと.........


 リオが思案しているうちに、周りの風景は繁華街から平民の居住区へ移っていた。

 貧民街とまではいかないが、下級平民の居住区らしく、道は舗装されておらず、住宅も平屋の簡素なものばかりだった。


 リオはそんな家々を見ていて、あることに気づき、一番手近な家の扉の前に走った。

 扉には魔法陣のような紋様が書かれた紙が貼ってあった。


「これは.........」


 リオは怒りに満ちた顔でその紋様を睨んだ。



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