第20話 護符
後ろから追いかけてきたオットーが、リオの視線の先にある紙を見て呟いた。
「魔法省の伝染病避けの護符だよ」
やはりか、とリオはため息をついた。
「こんなモノ、効かないでしょう」
「ああ。だけど、この護符や薬草の配給のために、国は特別税を徴収してるんだ。こっちは、ただでさえ生活が苦しいのに」
信じられないその事実に、リオは完全に頭に血がのぼった。
ありえない!!
苦しむ民に、恩着せがましく役に立たないモノを押し付けて、その上、税をむしり取っていくなんて!?
リオは護符を剥がそうと手を伸ばした。
だが.........
「だめっスよ、お嬢.........」
いつの間にかリオの隣に立っていたライナが、リオの手首を掴んでいた。
「“それ”に手をつけちまったら、お嬢は魔法省だけじゃなく、この国そのものを敵に回します」
「でも、ライナ!!」
「物事は論理的に考えなきゃいけないって、いつも言ってるのはお嬢じゃないっスか? それを今剥がして、誰かの病気が治るんスか?」
ライナの一分の隙もない理屈に、リオは閉口した。
「お嬢がやらきゃいけないことは、国に目をつけられないように立ち回って、一人でも多くの病人を救うことでしょ」
リオは護符に伸ばした手を下ろし、俯いて小声で謝った。
「ごめん.........」
小さくなるリオを、ライナはめんどくさそうにため息をつきながらも、どこか愛おしそうに見つめていた。
気をとりなおして3人はオットーの家は向かった。
もう1区画先というところまで来ていたので、2−3分で着いた。
リオとライナはこの前の老人のときと同じように、マスクとゴム手袋を装着した。
「なに、それ?」
見たこともない装備にオットーは不思議そうな顔をする。
「伝染病から守ってくれものよ。完璧じゃないけど、あの護符よりは優秀よ」
リオは自慢気に胸を張った。
「マスクの予備がなくて申し訳ないんだけど、あなたも布で鼻と口を覆っておいたほうがいいわ」
オットーは発症している父親と同居しているため、すでに病原体にかなり暴露していると思われる。
もしかするともう潜伏期に入っているかもしれないとリオは思ったが、オットーを不安にさせるだけだと思い飲み込んだ。
それをごまかすかのように、リオは鞄から手頃な長い布を取り出し、オットーの顔に巻いて上げた。
「よくわかんないけど........ありがとう.........」
顔の下半分を布で覆ったため、周りからはわからないがオットーはまた少し赤くなっていた。
リオは立ち上がり、出入り口の扉に対峙した。
オットーの家の扉も例にもれずあの護符が貼られていた。
リオはその護符を見ながら、心の中で呟いた。
私は負けないんだ.........
病気にも.........
古臭い権威にも.........
そんな思いを胸に、リオは扉に手をかけたのだった。
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