第2章 見えない脅威
第17話 王都
日が暮れる前に、リオとライナは王都の関所に着いた。
白魔術師の国際認定証を提示すると、従者のライナも含めスムーズに関所を通過できた。
王都に入ったあと、二人は宿屋を探しつつ、市中の様子を見て回った。
人通りは多く、活気もある。
とても伝染病が流行しているようには見えなかった。
「ライナ、前に来た時と比べてどう?」
リオが王都に来るのは初めてだったが、ライナは要人警護で過去に何度か王都を訪れていた。
「全然違いますよ。人通りは以前の半分くらいです。王都の市民は下級の平民でも経済的に安定してますから、みんな少しふっくらしてた。でも今は.........」
リオは改めて道行く人々の顔をみた。
確かにやつれている。
だが、リオが見た限り、そのやつれ方は病的なものではなく、心労や単純な栄養不足といった印象だった。
リオは考えた。
この道行く人々が皆伝染病にかかったわけではなく、伝染病の流行で王都の経済状況が悪くなっている。
事前に聞いたところによると、今回の伝染病は老若男女問わず罹患する。
当然患者の中には働きざかりの労働者や商人も含まれているわけで、商業や産業が停滞する。
病気で働けなくなれば、収入はなくななる。
自分が病気じゃなくても、取引のある店が業務を停止すれば、ドミノ倒しで仕事がなくなり、収入がなくなる。
市民の収入がなくなれば、市民は食品や生活必需品すら買えなくなる。
それを売っていた市民は収入がなくなる。
無限連鎖だ。
リオは前世で経験したとある感染症の世界的大流行のことを思い出していた。
伝染病が侵すのは人の体だけではない。
経済活動という人の営みも侵すのだ。
そんな物思いにふけり、周囲への注意がおろそかになっていたリオに、どんっとぶつかってくる者がいた。
見ると、みすぼらしい服装の10歳くらいの少年だった。
「気をつけろ!! ブス!!」
少年はそう言い残して走り去っていった。
リオは突然のことで反応が遅れたが、徐々に怒りがこみ上げてくる。
「ブ、ブス!?」
リオは走り去る少年に何か罵倒を返してやろうとした矢先、ライナが走って少年を追いかけた。
「へ........」
リオがあっけに取られているうちにライナはあっという間に少年に追いつき、少年の後ろ襟を掴んで引っ張り上げた。
「わ、何するんだ!? このヤロー!!」
少年は宙に浮いた状態でジタバタともがいた。
「ちょっと、ライナ!! いくら私の美しさがわかってないからって、子供にそこまでしなくても!?」
慌てて追いかけてきたリオが、さり気なく自意識過剰な発言を織り交ぜつつ、ライナを非難する。
「いや、別にお嬢がブスってい言われたのはどうでもいいんスよ。性格はブスだし」
ライナはそう言った矢先、リオはジャンプして、ライナの頭をグーで殴った。
「いってー!!」
ライナは痛がりながらも少年を掴んだ手を離さない。
「とりあえず、その子をもう離してあげなさい。児童暴行なんてことで、役人に目をつけられたら面倒よ」
「へいへい。離しますよ。これを返してもらったらね........」
ライナはそう言って、空いている方の手で少年の右手を掴み上げた。
その手には革製の財布が握られていた。
「え.........」
リオはそれを見て混乱した。
その財布はリオの物だった.........
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