第16話 決意
「なんでっスか?」
リオの答えにライナは顔に疑問符を浮かべて問い返す。
「傷を縫合してたときの糸の結び方よ」
リオはそう言って、糸を結ぶ仕草をして見せる。
「私が元いた世界の医者は、傷を縫う時に糸を外科結びという特殊な結び方で結んでいたの。その結び方は医者になる者ならば学生のうちに学んでいるものだから、医者だったら必ずその結び方をするの。でも彼女はそうしていなかった。自分なり工夫しているようだったけど、あまりいい結び方じゃなかった。それまでのことは全部元の世界の医療とほとんど同じようなことをやってたのに、そこだけすっぽり抜け落ちてるのよ。だから、彼女が私と同じ世界から来たっていうのはしっくりこないのよ」
リオの説明を聞いて、ライナはうーんと唸って、別の説を話した。
「生まれ変わりは別にいて、その人から知識と技術を学んで、糸の結び方だけ教えてもらってないとか.........」
「それも考えたけど、その糸結びは医者になるための初歩なのよ。そこをすっとばして他の高度なことを教えるのは理屈に合わない」
「そういうもんなんスか.........」
ライナはそう言ってまたうーんと唸った。
「それから、彼女は怪我については信じられない知識と技術を持ってるけど、おそらく病気についてはそうじゃない」
「なんで分かるんスか?」
「彼女、『此度の病は魔法省も宮廷魔術師達も手も足も出ない有様です』って言ってたでしょ。もし病気に対しても怪我と同等の知識があるならば、魔法省や宮廷魔術師たちが役立たずのクソだってわかるはずだから、そんな言い方はしないわ」
リオは非科学的でありながら傲慢な魔術師の権威を嫌悪していた。
特に、魔法省と宮廷魔術師はその権威の頂点であり、ついつい目の敵にして罵ってしまうのだった。
「あー、またそんな物騒なこと!! お願いですから、王都に入ったら口が裂けてもそんなこと言わないでくださいね!!」
「あー、わかった、わかった」
ライナの口うるさい注意に、リオはめんどくさそうにうなずく。
だが、リオは心の奥では納得していなかった。
もし、王都でたくさんの人がバタバタ死んでいる中で、何の役にも立たないどころから、むしろ害にすらなるような方法を魔法省や宮廷魔術師たちが偉そうに人々に吹聴していたら、やはり怒りで罵ってしまうかもしれない。
いくらこの世界が未発達であるとしても、知恵ある者として権威を持っている魔術師たちが、自分の目と耳で確かめることもなく、自分の頭で考えることもなく、古い迷信を盲信し、あまつさえそれを人々に広めるなど許されることではない。
そんな考えにふけっているリオをライナはまた嗜める。
「お嬢、またよからぬことを考えてるでしょ。ダメっスよ。魔法省と宮廷魔術師に睨まれたら、お嬢の話なんか誰も聞いてくれなくなりますよ。そしたら、どんなにお嬢の治療法が正してくても、誰も受けてくれないっスよ」
ライナの言葉にリオはキョトンとした。
いつも自堕落で怠惰なライナだが、リオが頭に血が登っているときは必ず横から止めてくれる。
この1年の間に、ライナはいつの間にかリオの良き相棒になっているようだった。
「うん、ごめん。ライナの言う通りだよ。私は白魔術師であり、医者だ。何よりも人を治すことを優先するよ」
そう言ってリオはライナにニッコリと微笑んだ。
突然の不意打ちを食らったライナは「全くお嬢は...」とブツブツ言いながらそっぽを向いた。
「パルス王女の正体は気になるし、魔術師たちの古い体制もなんとかしなきゃいけないけど、今はまず王都の伝染病をぶっ飛ばす!!」
リオはそう言って右拳を振り上げ、決意を新たに王都に向かうのだった。
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