第15話 王女

 リオの宣言に王女も騎士たちも唖然としていた。

 リオの後ろでは、ライナが「あちゃー、またやっちまった」という顔で頭を抱えている。

 そんな中、リオだけが満面の笑みで胸を張って立っていた。


「えーと、すいません、うちのお嬢は持病で、ときどき思ってもないこと口走るんですよー!! ねー、『世界を変える』って意味わかんないですよねー!! まーったく、そんなこと、これっぽっちも思ってないですからねー!! それじゃこの辺で失礼しまーす!! さいならーっ!!」


 ライナがそう言ってリオを脇に抱えて、荷物をひっつかんでばびゅーんとその場から逃げ去った。




 王女たちの姿見えなくなった頃、リオはライナに文句を言った。


「ちょっと、もう下ろしてよ」


 ライナは言われるままリオを下ろして、ぜーはーと息をついた。


「そんなに息が切れるまで慌てて逃げてこなくてもよかったのに.........」


「いや、逃げますよ!! 何考えてんスか!? 前も街なかでおんなじことほざいて、不穏分子として役人にしょっぴかれかけたでしょ!? しかも、今回の相手は王族!! 国家権力そのものスよ!! 名前と顔覚えられてて、このあと指名手配されて、王都で活動しにくくなったらどうするんスか!? 伝染病の調査どころじゃなくなるでしょ!!」


「う.........」


 ライナの最もすぎる説教に、リオはぐぅの音もでなかった。


「いやー、テンションあがっちゃって、つい..........」


「テンションあがったら何してもいいんスか!? テンション上がってたら、窃盗も、暴行も、◯◯も、××も、ぜーんぶ許されるんスか!? それだったら、俺なんか!”#$を%&¥@して、さらにその上.........」


「あー、ごめん、ごめん、わたしが悪かったから、謝るから..........」


 完全に変なスイッチが入っているライナをなだめるのに数分を要した。




「あー、でも、肝心なこと聞きそびれちゃったなー」


 王都に続く道を歩きながら、リオは思い出したように呟いた。


「知りませんよ。お嬢が悪いんスからね」


 ライナはまだ少しふてくされていたが、リオはもう気にせず話を続けた。


「あの王女様、何者なんだろう?」


「王女様でしょう」


 ライナが身も蓋もないことを返す。


「じゃなくて、あの知識と技術よ。とてもこの世界のものと思えないわ」


「お嬢と同じよその世界からの生まれ変わりってことスか?」


 ライナは、リオが異世界からの転生者であること、リオが元いた世界では医学という白魔術よりはるかに優れた治療技術が存在していたこと、リオが前世ではその治療技術を習得した専門職であったことを知っている。


 ライナがリオの従者として旅をするようになって1年。

 リオの行動や言動にはあまりにもおかしいことが多く、ライナが何度も問い詰めているうちに、あるときリオはとうとう素性を明かしたのだった。

 にわかには信じられない話であったが、それまでのリオが患者を治した知識や技術はたしかにこの世のものとは思えず、信じざるをえなかったのだ。


 そういった経緯でリオの正体を知っているライナは、同じようにこの世界にないはずの知識と技術を持っているパルス王女も、リオと同じ転生者ではないかと考えた。


 だが、その考えにリオはこう返した。


「真っ先にそれを考えたけど、違う気がするの.........」



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