第13話 百合

 リオとライナは開いた口がふさがらなかった。


 身なりと護衛を連れていることから、かなり身分の高い貴族令嬢だろうと思っていたが、まさかの王女。

 それも第一。


 リオはしばらく呆然としていたが、すぐに我に返り膝をついた。


「失礼を致しました!! まさか王女殿下とは!? 私は白魔術師のリオ・クラテス!! そちらの男は私の従者でライナ・ストランドと申します!!」


 リオが大慌てで自己紹介したが、ライナがまだぼーっと突っ立っているので、「この馬鹿従者!!」とライナの頭を掴んで地面にこすりつけた。


「ああ、やめてください!! お二人は私達の命の恩人です!! 頭を上げてください!!」


 パルス王女は二人の元に駆け寄り、膝をついて二人の肩に手を添えた。


「もったいないお言葉、ありがとうございます!!」


 リオは目をうるませながら顔を上げるが、ライナの頭を押さえつけている手の力は緩めない。


「お嬢.........もう、手放して.........」


 頭を押さえつけられたままのライナは、半分潰された虫のように手足をバタバタしている。


 そんな二人の様を見て、パルス王女はクスクスと笑った。

 と、そこで何かを思い出したようにキョロキョロとまわりを見回す。


「花を!! 誰か花を持ってきてくれていますか!?」


 パルス王女の声に、騎士の一人が応える。


「ご安心ください。こちらに」


 騎士は白い花の束を王女に差し出した。


 それは野盗に襲われていたときに王女が抱えていたもので、怪我をした騎士の手当に夢中になり、放りだしてしまっていたのだった。


「ああ、ありがとう!!」


 王女は安堵の笑みを浮かべながら花を受け取った。


 花はどうやら百合のようだった。


 この世界には魔法や魔獣といった超常の事物も存在するが、人間の解剖生理や疾病、自然界の動植物等、自然科学領域の事象はほとんど元の世界と同じである。

 ゆえに、元の世界と同じ花が同じように生息しているのだ。


「その花を摘まれるために、こんな山の中にいらっしゃっていたのですか?」


「ええ、そうです」


 リオの質問に王女がそう答え、リオは怪訝な顔をする。


「そのようなこと、家臣にお任せになられればよいでしょう。王女殿下自らこのようなところにいらっしゃらなくても。実際、先程のように不要な危険に御身を晒されているではありませんか」


「この花だけは私が直接摘みに来なければ意味がないのです.........」


 王女はそう言って、悲しそうな目をして空を見上げた。


「それに、こんな山中だろうが、宮殿の中だろうが、私の命の危険に変わりはありません」


「それはどういう意味ですか?」


 リオの問いに、王女は自嘲気味に答えた。


「私は.........死を望まれている王女なのです.........」



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