第12話 結紮

 少女がやっているのは、元の世界の医師にとってもやや高度な縫合法であり、単純に傷を縫い合わせるよりも傷の広い範囲が密着するため、治癒の面で非常に優れた方法なのだ。


 深い傷を縫う場合、皮膚の奥を先に縫ってしまう方法もあるが、その場合糸が完全に埋もれてしまい、傷が治ったあとに糸を除去できない。

 元の世界では吸収糸という皮膚に溶けてなくなる糸を使ってそういった縫い方をしていたが、この世界にはない。

 ゆえに、深い傷を縫う場合、少女がやっている方法がベストであり、リオも同じ深さの傷を縫う場合はそうしている。


 この子.........

 やっぱり.........


 この世界に存在しないはずの知識、技術。

 リオはこの少女が自分と同じ別の世界から転生してきた医師ではないかと考えた。

 だが.........


 え.........


 その考えはすぐに揺らいだ。

 針を通したあとの糸の結び方がでたらめだったのだ。

 自己流でかなり効率のいい結び方をしてはいるが、元の世界の医師がやるような外科結びとは全く異なっていた。


 外科結びは元の世界だったら、研修医でもできる.........

 それができていない........

 にもかかわらず、垂直マットレス縫合なんて高度なことをやってのけている..........

 わけがわかない.........


 少女の謎は深まるばかりだった。

 そして、きわめつけにリオを驚かせたのは........


 速い.........


 少女が傷に針を通し糸を結ぶスピードは凄まじく速く、そして正確だった。


 そして、5分もかからないうちに傷の端から端まで綺麗に縫い合わされ、出血もぴたりと止まっていた。


 嘘でしょ.........

 この子..........

 私より上手い.........


 リオは元は内科医であり、縫合はそこまで得意ではない。

 ゆえに、少女の縫合技術は完全にリオを超えていた。


 縫い終わったあと、少女は傷口に布をあて、その上から包帯を巻いて固定した。


「はい、おしまい」


 少女はそう言って、ふぅと息をついた。


 手当を受けた騎士は泣きながら喜んだ。


「ありがとうございます!! これで姫様に救われたのはいったい何度目か!?」


 その言葉に、リオとライナは驚愕の声を上げた。


『姫!?』


 少女は、「あー、いけない........」と立ち上がって、二人に恭しく礼をした。


「急を要する事態で、ついご挨拶を欠いておりました。誠に申し訳がございません」


 少女は顔を上げ、自らの名と身分を告げた。


「私の名はパルス・アンブロワーズ。アンブロワーズ王国の第一王女です」



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