第11話 縫合

 少女はさらに次の指示を騎士たちに与えた。


「この近くに小川が流れてたはず!! そこまでハロルドを運びましょう!!」


 リオさらに驚愕する。

 リオは、傷を洗浄するために大量の水が必要だと思案していた。

 その考えを少女にまるで見透かされているかのようだった。


 そう思っていた矢先、少女はリオに声をかけてきた。


「旅の方!! 助けて頂いたのに、この上お願いなどおこがましいのですが、鍋か、フライパンか、何かお湯を沸かせるものを持っていませんか?」


 リオはもう自分の頭の中が覗かれているのかとすら思った。

 天然の水には菌や寄生虫が含まれていることがあり、傷の洗浄に使うには十分に煮沸してから使うほうが望ましい。


 この子.........

 もしかして.........


 少女の正体について疑問はつきなかったが、今は何よりもけが人の治療が優先だ。


 リオは少女に応えた。


「ええ、あります!!」




 少女の言ったとおり、すぐそばに川が流れていた。

 怪我をした騎士を川辺まで運び、リオは鞄の中から金属製のポットを取り出した。

 今回と同じようにけがの処置でお湯が必要になることがあるため、そのためにリオは医療道具と一緒に持ち歩いているのだ。


 周辺から枯れ枝を集めてきたライナが火をおこし、リオはポットに川の水を汲み、火にかけた。

 沸騰したお湯をぬるま湯くらいの温度に冷ましたところで、少女に渡した。


「ありがとうございます!!」


 少女は傷の圧迫を解除し、傷口にお湯をかけていく。

 怪我の騎士は顔をしかめるが、声は出さず耐えた。


 先ほどに比べればやや出血の勢いはましだが、それでも血は出続けている。


「 私の鞄を!!」


 少女に言われて、騎士の1人が革製の鞄を持ってくる。

 鞄を開けて、中から取り出したのはゴム製の手袋、針、糸だった。

 針は裁縫針と同じくらいの大きさだが、半円状に曲がっている。


 リオはそれを見て思った。


 これ.........

 まさか.........


「ハロルド、頑張れる?」


「ええ、もちろんです!!」


 少女が怪我の騎士に優しく声をかけ、騎士はこれから何が行われるかわかっている様子で力強く頷いた。

 そして、少女は出血が続く傷を針と糸で縫い始めた。

 それも単純な縫い方ではない。

 傷口から離れたところから深く大きく針をかけたあと、針を返して同じ線上で今度は浅く縫っている。

 つまり、一本の糸で深いところと浅いところを同時に縫っているのだ。


 その様を見てリオは思わずつぶやいた。


「垂直マットレス縫合.........」



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