第10話 止血
余裕をかましているリオの背後から、別の野盗が槍を振りかぶり、リオの後頭部をめがけて振り下ろす。
が、振り下ろしきったときには、槍の先端がなくなっていた。
「さして強いわけでもないんスから、あんまり調子のらないでくださいよ」
いつの間にそこに移動してきていたのか、ライナが抜き身の剣を持って、リオの傍らに立っていた。
野盗の槍がリオの後頭部に到達する前に、ライナが剣で槍の切っ先を切り飛ばしていたのだ。
ライナは自堕落で怠惰で何事にもやる気のない男だが、貴族が令嬢の護衛にたった一人でつけているだけあって、剣の腕を含む戦闘能力はかなり高いのであった。
「クソ!! 全員でかかれ!!」
しびれを切らした野盗のリーダーが全員に号令をかける。
「ライナ、人道的に殲滅しなさい!!」
「いや、むちゃくちゃ言わないでくださいよ!!」
そこからは、リオ、ライナ、野盗、それから騎士たちも交えて乱戦になった。
リオは振動の魔術で、一人ひとり行動不能にしていき、ライナは“人道的”にということで、武器破壊に徹している。
騎士たちも細剣でなんとか応戦している。
そして、野盗達の武器がライナによってほとんど破壊され、野盗の半数近くがリオの魔術で行動不能になった時点で、野盗のリーダーはとうとう状況不利と判断した。
「クソ!! 撤退だ!!」
動ける野盗達はさっさと退いていき、リオによって行動不能にされた者たちも頭をかかえてフラフラしながら逃げていった。
リオはふぅとため息をつき、ライナははぁとため息をついた。
「ハロルド!! 大丈夫か!?」
二人が気を抜いていたとこと、騎士たちの方でそんな声が上がった。
二人が駆けつけると、騎士の一人が右の前腕に大きな傷を受けており、血を流していた。
おそらく剣撃から頭部をかばうように受けたものと思われ、15cmはある切創だった。
リオは傷をみた瞬間叫んだ。
「すぐに圧迫を!! 誰か、厚手の布のようなものを持っていませんか!?」
別の騎士が、自身の服の端を破って、その布を傷口に当てた。
リオは考えた。
傷口が大きい.........
縫合が必要だ........
だけど、野盗の剣で切られた傷なんて、かなりしっかり洗わないと高確率で化膿する........
でも、それにはかなりの水が必要だ.........
こんな山道でそんな水なんて........
「リチャード!! それじゃ、圧迫が弱いわ!! 代わりなさい!!」
リオが熟考している横で、そんな叱責の声が上がった。
え?
リオが驚いてそちらを見ると、貴族令嬢と思われる例の少女が介抱にあたっていた騎士を押しのけ、代わって傷を圧迫していた。
しかも、どこからか紐を取り出して、上腕を縛っていた。
リオは驚愕した。
出血する傷の処置は、まず何より出血部位の圧迫。
これだけで、かなりの血液の喪失を防ぐことができ、傷によってはこれだけで止血できることもある。
それでも出血が多い場合は、出血部位にくる血液量を減らす必要がある。
それには血液の流れてくる上流を遮断しなければならない。
つまり、前腕の出血を止めるためには、より心臓に近い上腕を縛れば、出血を減らすことができるのだ。
少女のとった行動は全て、出血の応急処置の基本を押さえているものだった。
そして、解剖学も生理学も発達していないこの世界では存在しないはずの理論である。
リオは少女の姿を見て戦慄した。
この子.........
何者なの.........
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