第9話 振動
下級騎士たちが手にしているのはみな平時に帯剣している細剣で、一方の野盗たちは大剣や槍、弓などで武装している。
どうやら令嬢と下級騎士の一団は待ち伏せで計画的に囲まれたようだった。
野盗たちは駆けつけてきたリオとライナに気付き、リーダーと思しき男が脅しをかけてきた。
「旅人かい? 命が惜しかったら、首を突っ込むなよ」
野盗の言葉にリオはわざとらしく考え込むような素振りをしながら呟く。
「命は惜しいわね.........」
「賢いお嬢さんだ。だったら.........」
「でも!!」
野盗の言葉に、リオは強引に自分の言葉を押しかぶせる。
「私は白魔術師なの。だから、私が惜しいのは.........」
リオは地を蹴った。
「この目に映る人すべての命!!」
野盗たちとの間合いを詰めながら、呪文を唱える。
「ビブラシオ!!」
野盗の1人が剣を振りかぶって、リオに襲いかかる。
互いの間合いに入った瞬間、野盗は剣を振り下ろすが、リオは体を右にひねってかわす。
避けた勢いで、そのままリオは右手を野盗の耳にたたきつける。
たたきつけた力はさして強いわけではなく、野盗は次の攻撃に転じようと頭の向きをリオの方に向ける。
だが、その瞬間、野盗は強いめまいを覚え、その場に崩れ落ちた。
他の野盗たちも、騎士たちも、令嬢も、リオが何をしたのか理解できなかった。
リオが使ったのは風の精霊を利用し、空気の振動を起こす魔術だった。
振動は極めて微弱なものだが、ぶつけた場所が問題だった。
リオが振動がをぶつけた耳には“前庭”という器官があり、直線加速度や重力を感知する。
その前庭に直接的に振動を加えられたことによって、船酔いに似ためまいを起こしたのである。
末梢性めまいという疾患群がある。
原因はさまざまだが、耳の前庭が障害されることによってめまい症状を呈する。
急性期にはめまいで動けないほどのこともあるが、多くは自然軽快する良性疾患だ。
この世界は必ずしても治安がいいわけではなく、旅の道のりで暴漢に襲われる可能性もあり、護身の技術が必要だった。
そこでリオは末梢性めまいという疾患からこの方法を思いついたのだ。
非殺傷でありながら、速やかに相手を行動不能にし、後遺症も残さない。
理想的な護身魔術なのである。
「魔術師か!?」
野盗のリーダーは、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。
詳細はわからないが、リオが何らかの魔術を使ったということは理解できた。
「白魔術師よ」
野盗の言葉を訂正し、リオは不敵な笑みを浮かべた。
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