第1話 メリークリスマス自殺
よく、ニュースやなんかで自殺だの、その未遂だのが報道されるよな。
その死に方が猟奇的だったり、ひとさまの迷惑をかけるようなものだと、ワイドショーを更に湧かせたりするわけだ。
新幹線で焼身自殺だの、公園で爆死自殺だのってね。
そんなのを見て、みんなは頭がおかしいとか、死ぬ勇気があればなんだってできるとか言うんだろうが、世の中、そうなってみないとわからないことってたくさんあるよな。
彼らには彼らなりの信念があった――かもしれない。
俺は根本的に臆病な性格だから、自ら命を断つなんて真似、逆立ちしたってできっこない。するやつは、まあいるんだろうが、やはりどこか、なにかが外れてぶっ飛んでるんじゃないのか、なんて考えてた。
しかし、あんたも目の前に降ってきたやつの話を聞いてみると、きっと少しは見方が変わるはず。
乗り込もうとした自分の車の上に、思いっきり叩きつけられた女の姿。それを目の当たりにしたのは、メリークリスマス。雪も降らない静かな聖夜のことだった。
――ボンッと、何かが爆発するような音とともに発生した惨劇は、網膜に焼き付いて未だ消えることはない。
しかし、俺はその衝撃をどこか夢のように感じていて、それを現実として受け入れることができないでいて、車のクッション性なんかに感心したりしていた。
そりゃおかしくもなるよな。女が空から降ってきて、さらにそこが俺の、買ったばかりの車だったんだから。俺はきっと、シータが空から降ってきても、恐らく見なかったことにして自分の家に帰るだろう。
現実からの逃避行は、けれど、ものの五秒程度、その女の苦悶に満ちたうめき声により終了した。帰ってきた現実では、やはり女が車の上で横たわり、寝そべる固いベッドは確実にへこんでいることは一目瞭然。冷静を取り戻した俺は、この女をどうにか死なせるものかと決意した。なんたって俺は好青年だからな。人が倒れていたら、そこが愛車の上だったとしても、助けるのは当たり前だ。死なれたら誰がこの車を弁償するんだ、なんてことは誓って考えちゃいない。
「おいあんた! 大丈夫か? 聞こえてるか? 待ってろ、いま救急車を呼ぶから――」
すばやくスマホを取り出し、震える指で番号を打ち込みすぐに発信。間もなく女性のオペレーターに繋がった。
「もしもし、今女の人が降ってきて――」
自分で口にして、ふと疑問が生じた。なぜこの女は上から降ってきたんだろう。俺の車をへこましたいがために飛び降りたとは思えない。単なる事故か、何か事件にでも遭ったのか。あるいは――。
「待って! 待ってください!」
先程まで響いていたおぞましいうめき声とはまるっきり違う、えらく澄んだ制止の声に思わずぎょっとして振り返る。俺の車の屋根に手をつきながら、俺と同じ目線で更に続ける。
「警察は、呼ばないでください!」
「いや、今は救急車を呼んでたところだけど?」
「結構です!」
手をブンブン振り回しながら拒絶の意を示す女に圧倒された俺は、素直に従うことしかできず、「いらないそうです」と電話越しに伝えて通話を切った。
一応、見える範囲で確認したが、出血はなく、頭を打ちつけた様子もなかったので、緊急を要するほどではないようだった。
「とりあえず降りてくれ。これ、俺の車」
「そうなんですね。すみません」
外見は俺と同じかやや若いくらいの歳に見えるが、その話し方、受け答えはどこか大人びて感じた。車を降りる姿は、パンツ丸見えで間抜けにしか見えなかったが。
目の前に降り立った女を改めて確認する。
ベージュや生成りの色を多く使った、いわゆる、ゆるふわ系の服装を身にまとい、髪はやや明るめの茶色。ミディアムほどの長さをゆるく巻き、まあまあ整った顔をしていた。
しかし、いくら可愛かろうと、若干くの字に曲がって見える車の屋根がもとに戻ったりはしない。
「それで? なんで俺の車を盛大にへこましてくれたわけ? なんか恨みでもあった?」
何故か怒る気にもなれず、別段語気を強めることも荒げることもせず、努めて冷静に聞いたつもりだったが、女はどうして、怯えた様子を見せた。俺が質問口調で語尾を強調する度に、ビクッと身体を震わす感じ。
「――私、自殺したんです」
痛そうに腰をさすりながら、女は答えた。
その場で免許証を差し出され、彼女がチカという名前であることを知った。
軽めの自己紹介。二十歳でラグジュアリーブランドの販売員で、住んでいるのはこの近くのアパートらしい。
「車のことは、本当にすみません。修理代は全額払うので、警察を呼ぶのだけはやめていただけませんか?」
丁寧に頭を下げるチカの必死な対応に、小心者の俺は「まあ、いいけど」なんて返してしまう。きっとよくはないのだろうが。
「そもそも、自殺したって何? ついうっかり落ちたとか、誰かから追われてるとかでなくて?」
ついうっかりマンションから落ちてしまう女にも、追われる立場の危険な女にも関わり合いになりたくない俺は、率直に尋ねた。
「自殺したんです。自分で飛び降りました。――死ぬつもりだったんです」
そう口にしながら、じわじわと涙を溢れさせるチカ。次第に、せきを切ったように顔に手を当てて子供のように声を上げて泣き始めた。
「怖かった! マジで、怖かった……。痛かったよお」
状況は混沌と化し、ひと目は気になるは車はへこまされるはで、なんなら俺が泣きたい気分だった。そもそもこの状況はなんなんだ! そう心の中で叫ぶことしかできなかった。
「うち、来る?」
途方に暮れた俺の口からついて出たセリフは、ここ数ヶ月使うことのなかった、ナンパした女を持ち帰る時のリーサルウェポンだった。
チカは顔を両手で覆いながら、コクリと頷き答えてみせた。
混沌は、その深さをさらに増し、この場を支配する空気の鈍重さたるや、人智を遥かに超越したものになっていた。
リビングに置かれたダイニングテーブルを挟み、俺とチカは向い合せで座っている。
部屋は先程出たばかりだったため暖気が残っており、なおかつ暖房をガンガンに入れたら部屋はすぐに暖まった。さらには湯を沸かしインスタントのココアをマグカップに注いでチカに与えていた。
自分の行動を思い返してふと考える。なぜ俺はここまで彼女に気を使っているのだろう。
「落ち着いたか?」
「はい。何から何まですみません。ありがとうございます」
手元に置かれたカップをあたたかそうに両手で包み、口をつけると、安堵したような柔らかい表情を浮かべてみせた。
俺はその百面相みたくコロコロ変わるチカの表情を見ながら、違和感を覚えずにはいられなかった。こんなにも感情を表に出すことのできる人間が、果たして自殺なんて選択をとりうるのだろうか。あまつさえそれを実際に実行してしまうなんて、到底思えるものではなかった。
心の裡に何を忍ばせているのかなんてわからないし、人間の行動のすべてを理解できるなんて思ってもいない。でも、納得できなかった。
「で、なんで自殺なんてしたんだ? 俺は優しくないからな。言いたくなければ言わなくていいなんて、そんなことは言わないからな」
別に、理由が必要なわけでも、喋らせて嫌な気持ちにさせてやろうと思ったわけではない。俺は鬼畜じゃあない。ただ、単純に気になっただけ。だって、普通におしゃれして、そこそこ可愛くて、まだ若くて、死ぬなんて言葉を口に出すだけじゃとどまらず、実際に飛び降りたのだ。俺は納得したかった。ああ、なるほどって具合にね。
「……大したことがあったわけじゃないんです。嫌な目にも、生きていたら多少遭って当然だろうし、我慢できないこともたくさんあったけど、それも自分でなんとかしたり、周りに助けてもらったりしながら生きてきました。他の人と比べて自分がとても不幸な目に遭っているわけじゃないのも分かってますし、もっと、他にたくさん辛い気持ちを抱えて生きている人がいることもわかってます」
チカの話す内容は、自殺した理由でなく、自殺しない理由に聞こえた。俺は催促することなく、ただ、チカのカラーコンタクトで肥大した、茶がかった瞳を見つめていた。
「死にたい、というか、生きたくないなって思ったんです。このまま働いて、誰かと結婚したりして、子供を授かったりして生きていくのは、幸福で、とてもいいことなのかもしれませんし、少し憧れたりすることもあります。けど、私は、そんな自分が想像できませんでした。そこで、その場所で、私が心の底から喜んでいる姿を想像できませんでした。私は真剣に、真面目に生きていたいのに、まわりのひとは、適当に生きているようにしか見えなかった。ただただまわりに気を使って、合わせて、なんとなく生きている人間が大嫌いで、そのよくある幸福の形も、その延長線にあるものだと思えば、やっぱり想像がつきません。でも、嫌だって、そんな風になりたくないって思いながら生きていたはずなのに、気づけば私も、そんな輪の中で笑っていたんです。それに気がついてしまったら、もう自分の生になんの価値も見いだせなくなりました。だから私は――飛び降りたんです」
俺は、いや、俺も――流れるままの繰り返される日々に嫌気が差していた。つまらない。退屈だ。そうやって心の中で悪態をつきながら、自分なりにまだマシだと思える生き方をしながら、やはり満たされないコップを片手に物乞いみたくさまよっている最中だ。
ダブって見えたわけじゃない。ただ、全く違うものでもない。限りなくシンパシーに近い感情が、俺の、チカに対する興味を増幅させた。
こんなのは嫌だ、こんな生き方は嫌だ。あんなふうになりたくない。こんなふうになりたくない。生きていたらそうやって考えることがあるよな。他人との比較や、自分の心に根付いた信念とか、そう思う理由は人それぞれだ。そして、そう思いながらもふとした瞬間に気がつくんだ。あれ? これは自分が一番したくなかったことじゃないか? ってね。でも、大体が気づいたところでどうすることもできやしないし、まあいいかと諦めたりするわけだ。もしくは、昔自分が嫌と思っていた未来の自分の姿なんて、記憶に残っちゃいないのかも知れないな。
俺の同級生にも、作業服を着て汗水たらして働くなんて、絶対に嫌だと豪語していたやつがいたが、学生の内に付き合っていた彼女を妊娠させ、今は家屋の解体屋だ。
なんともまあ幸せそうな仲睦まじい家族写真をインスタに載せて伝播してくれる。この世の中で、一番自分が幸せであるような笑顔を浮かべているこいつは、過去自分が忌避していた自身の将来の姿を覚えているのだろうか。きっと覚えてはいないだろうな。
世界も人も、何から何までほんの一粒のきっかけがあれば際限なく変化する。いいも悪いもないのだろうが、ただ率直に、それでいいのか? なんて思ってしまうよな。まあ、これでいいのだと言われてしまえばそれまでだけどね。
チカの言葉や思考なんかはそんな事ばかり考えている俺には十分理解できたし、共感できることも少なからずあったことは認めよう。ただ、何度も言うが、臆病な俺は絶対に自殺なんてしやしないけど。
しかし、そこで、「ああわかるよその気持ち」だの、「うんうん、そうだね」なんて女受けを誘うようなセリフを吐く気にはなれなかった。俺は別に、この場でワンチャンスを会心のクリティカルヒットでものにしたいわけじゃなかった。
「――俺も、似たようなことを考えるときがある。毎日がつまらなくて退屈だ。みんな同じ服を着て、おんなじ顔をして、おんなじ方向を見て、流されながら生きている。かと言って、そこに爆弾を投げ込んですべてを台無しにしたいわけじゃない。そんな度胸もないしね。ただ、もっと、生きたいと思いながら生きたい。ただ惰性で生きることをとやかく言うつもりはないけどね。とりあえず、俺はそんなふうに思いながら、結局何も掴めないまま、探しながら生きてるよ」
俺は運命なんて信じちゃいない。それがあるとしたら、こんなくそみたいな世界のシナリオを考えたライターの存在すら認めることになってしまうからだ。世界設定も、構成も、脚本もクソな物語。そんなものを考えたやつがいるなんて信じたくもない。
「似た者同士ですね」
けれど、そんな言葉を口にして、恥ずかしそうに微笑むチカを見ると、なんだか特別な出会いであってほしいなんて、そんなことを柄にもなく考えてしまった。
その後、チカはそれ以上語ることなく、俺も語らず、俺たちは別れた。
連絡先も聞いたし、修理もしてくれると言う。引き止める理由は一つもなかった。素直な気持ちを言えばもう少し話をしていたかったが、男の部屋にずっととどめておくのも気が引けて、顔色と空気を読んで帰したわけだ。
程なくして、俺は無様にへこんだクラウンを知り合いが営む板金屋へと持ち込んで、正確な修理費が記載された正式な明細を受け取った。
二十八万八千円也。安いのか高いのか。まあ、自分で払うわけじゃないのでそこまでは気にしなかった
明細をスマホのカメラに収め、意味もなくきらびやかに加工を施してから、チカのラインに飛ばしてやった。
返信はその日の夜に、たいそうご丁寧な文面で送られてきた。
数件のやり取りを経て、週末を挟んだ月曜日に金を受け取る運びとなった。集合場所は皮肉にも現場であるマンションの駐車場。
なんとも洒落っ気のない場所に集まるものだと考えもしたが、デートでも遊ぶでもないのだから仕方がない。ただでさえ修理代なんて無粋なものを持ってくるのだから。
約束の日、約束の時間に、チカから到着したとの連絡が入り、俺はそそくさと部屋を出て、エレベーターに乗り込み降下する。
今回は長話になっても凍えないように、もっさりとしたノースのダウンを羽織って繰り出していた。この辺はめったに雪は降らないが、湿度が低く底冷えする。吐息はいつまでも白く昇り、長いことふわふわと浮いていた。
「おまたせ。悪いな、こんな寒いところで待たせてしまって」
「いえ。そこまでは待ってませんから、平気です」
そう口にするチカも、今夜は防寒性も防御力も知能指数も低そうな緩い服装ではなく、濃紺のスキニーデニムに真っ黒なモンクレールのダウンコート。
なかなか金のかかってる服装を見るに、それなりに持っていることがわかる。
ハイブランドのネックレスだのカバンだのだけに金をかけるやつっているよな。そのくせ靴がズタボロだったり、上が毛玉まみれのコートだったりするやつが、俺はあんまり好きでなかった。というか嫌いだった。
その点、チカは全てに統一感のある金のかけ方をしているようで、密かに俺の評価点が加算された。
何にしたって、バランスが大事だってこと。ファッションも、体型も、愛だの恋だのも全部そう。多分ね。
差し当たって、差し出された茶封筒を受け取り、中身を確認した俺は驚いた。すかさずチカの顔を見て抗議する。
「なにこれ。俺、三十万くらいって言ったよね。明細も送ったろ? 多いよこれ」
中にはシワのない綺麗な諭吉たちが五十人ばかり。修理に当てても二十人以上残ってしまう計算だ。俺にだってそれくらいの算数はできるんだ。それだけいればサッカーチームを二つほど作れてしまうじゃないか。そんな大所帯の諭吉たちを渡されても当惑する他ない。金はいくらあっても足りはしないが、しかし、こんなもらい方になると話は別だ。
「それは迷惑料です。警察を呼ばないでいてもらいましたしから。本当に、今回は申し訳ありませんでした」
これは、手切れ金かなにかだろうか。この金を払うから今後一切関わるな――そんな意図を勝手に勘ぐってしまう。もしもそうなら、そうだとしても、俺はチカという人間をもう少し知りたかった。見ていたかった。
「受け取れないよ。俺は修理さえしてもらえば構わない。余った分は返す」
「いえ、結構です。もうそれはアキラさんに渡したものです。返されても私が困ります」
返す、いらない。もらえない、受け取れない。そんな押し問答を何度も繰り返すが、チカは一向に引こうとはしなかった。被害者は俺のはずなんだが。
「――わかった。ならこの金は全部きっちり俺がもらう。そんで、あんたは俺に時々付き合ってくれ。そのときにこの金を使ってあんたに奢ることにする。この条件じゃなきゃ金は絶対受け取らない。あんたにも譲れないことがあるように、俺にもあるんだ。これでも最大限譲歩してるつもりなんだよ」
俺は、何も与えていないやつから、何かを与えられることに根源的な忌避を覚えるクチだった。あんたにもないか? こういう、他人が平気な顔をして、もしくはしぶしぶ許容できることが、何故か自分にとって死ぬほど嫌な行いになるってやつ。
俺は以前に与えたやつ。これから与えるだろうやつ。いわゆる仲のいい気の知れたやつらしか、ものだの金だのは受け取らない。お気持ちだけで結構ですというやつだ。それは俺の中にある、俺のためのバランス感覚のようなものだった。その均衡が少しでも破綻すれば何よりも気持ちが悪くなる。
渋々といった顔でチカは頷きかけ、ハッとした表情を浮かべると、自分の身体を抱きしめる素振りをした。
「何か、変なこと考えてますか? すみません。私こう見えても身持ちは堅いほうなんです」
吹き出しそうになるのを必死にこらえ切った俺は、努めて冷静を装った。
「修理代を余計にもらって、さらに身体まで要求するってどんだけのクズなんだよ。――俺は自分が死にたくなるのは我慢できるけど、他人が死にたくなるのはどうも許せないらしい。だからあんたは、俺とたまに遊んで少しでも楽しくなればいい。それが俺にとってもいい退屈しのぎになるかと思っただけだよ。こうして知り合ったからには、一応死んでほしくないんだ」
慌てて口から出た言い訳は、けれど恐らくは俺の本心だった。チカを楽しませたい気持ちは少なからずある。けれど何より、結局自分本位の退屈しのぎでしかないのだと自覚する。
「そうですか。私もすぐにどうこうするつもりないですし、何より痛いし怖いのは身にしみてわかりました。私なんかでよろしければ、アキラさんの相手をさせていただきます」
「堅いのは身持ちとガードだけにして、もうちょっと柔らかく喋ってくれないか? そんなカチカチな言葉遣いされたら俺の肩も凝りそうだ」
「わかった。ならアキラもあんたって呼ぶのやめてよ。――なんかイラッとするんだよね」
口調の変わったチカは、それに合わせて纏っていた雰囲気も変わって見えた。こいつはとんだ食わせ物かもしれない。悪戯な笑みを浮かべながら毒を吐く女にろくなやつはいないよな。
「ああ、ごめん。――ミカだっけ?」
「チカだっつーの」
ふざけて軽口を叩いてみたら、割と強めの右ストレートを左肩で受け取る羽目になった。
間抜けなもんだよな。俺はチカと仲良くなることや、湧き起こる好奇心に踊らされて、チカの心で順調に育まれていく闇の姿の、ほんの少しも見つけることも感じることもできなかったんだから。
もしもあの時気づいていれば、なんて、月並みな後悔を死ぬほどしたことを覚えている。
あの時、あの瞬間。何もできない自分と、限りなくスローになった世界の中で交差した視線、あの瞳、すべてを覚えている。
まあ、終わってしまえばあっけのないものだった。噛み砕かれた奥歯が、爪が食い込み裂けた手のひらが治るように、けれども、すべては元に戻りはしなかった。
チカの仕事は平日休みのシフト制。土日は基本的に忙しいようで、会う日は平日に限られた。かく言う俺は、当時筋金入りのニートであり、貯金を食いつぶしながら生きていた。
そんな俺とは対照的に、百貨店に入っているラグジュアリーブランドの販売員であるチカの年末年始は仕事一色だったようだが、一月も半ばに差し掛かり、ようやく余裕ができたというこの日、俺とチカは街へ繰り出す約束を交わしていた。
車の修理は、年末年始の休暇もあり、予定より遅れていた。
天気は夕焼けが血に染まったかのような晴天で、気温は低いが太陽のぬくもりを感じられた。やけにご機嫌だった俺は、久々にバイクのエンジンに火を入れることにした。俺が乗るのはカワサキのハヤブサ。とにかく大きい、とにかく速い。まあ、とくに飛ばして走るわけでもなくこだわりがあるわけでもない。単に知り合いに安く譲ってもらったというだけの足でしかないけどね。
みんなが駐輪場代わりに使っている大きな歩道の一画にバイクを停めて、待ち合わせ場所に向かう。どこへ行こうか、何をしようか。そんなことをウキウキと心躍らせながら考えつつ、スマホをぼんやり眺めて待ちぼうけているチカに声をかけた。
「私、クラブとかそういうところ、行ったことないなあ」
そんなことを口にしたチカを連れて、俺はこの街で一番大きく人の集まるクラブへと向かった。フロア毎に流れる音楽やドレスコード、集まる年齢層なんかも変わってくるこのクラブの最上階はVIP。俺たち庶民には想像すらできないことが、夜な夜な繰り広げられている。まあ、俺の勝手な想像だけど。
五階建ての箱。その出入り口には筋骨隆々、ガイジンの門番。たいそうなセキュリティ。あまりの激しさに腰が立たなくなった女のような体制でフリーズしているチカを押すようにして、仁王像の間をくぐってエレベーターの上ボタンを押し込む。
数秒して開いた天国の入り口から、男が二人と女がひとり、互いに絡みつくように、絡み合うように、テレビの後ろの配線のように乱雑な塊が転がるように放出された。
「え? なんで男の人はどっちもおっぱい触ってるの? なんで女の人は笑ってたの? なんでタバコ吸いながらエレベーターから出てきたの?」
エレベーターの中で、「なんで期」の子供のように疑問を投げてよこすチカに、「さあ?」ととぼけ続けた。あんなのは別段珍しい光景でもないからね。暖かくなればこの手のバカは格段に増えるしそのバカさ加減も増す。ショーツに手がかかっていないだけ今日はまだマシなほうってこと。コインパーキングに停めた自分の車の裏で男女がまさぐりあってた時はさすがに笑うしかなかったな。
三階に到着。仄暗い空間と照らすことを目的としないただ彩るだけの光源、マッサージ機を押し当てられているかのような心臓を震わす音の振動。
フロアの隅で女を品定めするようにキョロキョロする学生や、中央でただただ踊り狂う生き物と化したイカれた野郎。しかし、ここではこれが日常茶飯事。空気に飲まれるか空気に酔いしれるか、楽しみ方は二つに一つ。
チカはというと、なにをすればいいのかわからず途方に暮れた迷子みたいな顔をしていた。俺も初めてきた時にはこの空気に圧倒されて当惑しっぱなしだった。
経験上酒を煽ればある程度波に乗れるはず。まあ、そのまま飲まれてぶくぶく溺れる可能性を大いに孕んでいるけどね。
打ち上げられた無人島はひとりきりのラブホテル。二日酔いで頭痛のする頭で自分の行動に後悔するかなかったことにするか。だいたいは後悔してからなかったことにするのだろう。女ってのは男だけじゃなくて全てにおいて上書き保存なんだから。というのは俺の勝手な想像ね。
ともかく、飲むか、飲まれるか。そしてチカは後者だった。まあ、俺がいるという安心感もあったのだろうが、それにしたって危険なほどの酒の弱さだった。
カクテルを三杯煽った頃には足元がおぼつかなくなり、四杯目を煽ると目がとろけ始め、五杯目を銭湯上がりの牛乳のように一気に飲み干すと、俺の肩にしがみついてなければ立ってるのも難しいという有様。
今なら尻を撫でようが、胸を揉もうがきっと笑って許されるに違いない。何が身持ちが堅いだと心の中でつぶやいた。けれど、紳士な俺はそんなことはしないのだ。魔法が解ければ現実に、酔いが解ければ裁判沙汰に、このご時世当たり前のシンデレラストリー。訴えられないコツは訴えられるようなことをしないこと。身を守るのは門外に立たせるガイジンではなく、結局は心の在り方だてこと。
ただ身体を触るために博打を打つのは、まったくもってセンスがないよな。賭けなんてものは命をベットしてまで賭けたいと思うことにこそするべきだ。ちなみに臆病な俺が賭けれるのなんてせいぜい千円まで。負けるかもしれないギャンブルを楽しむ気持ちも、人生を賭けて求めるものも、そもそも持ち合わせてはいなかった。
恐らくはぐるぐると回って見える世界を楽しむように、チカは腕をばたつかせながらフラフラと蛇行して道を歩く。
終電に間に合うように帰るつもりだったが、チカが帰りたくないと駄々をこね、素面ながらに俺も一緒になってはしゃいでしまった。
「チカ、タクシー拾うからそろそろ帰れよ」
「やだ、久々にお酒飲んで、いい感じに酔ってるのになんでそんなこと言うの? ははは」
なんの意味もなく言葉の尻で笑いこけるチカは、いい感じどころではなく相当に酔っているように見えた。
コンビニで買った水を一気に煽りトイレから出てきた時には比較的にしっかり歩いていたようにも見えたがそうでもないようだった。
「アキラは? どうやって帰るの?」
「俺はバイク」
「えーずるい! 私もバイク乗る。今!」
めんどくせえ。そんなセリフが脳裏をよぎる。しかし、このような状態になるまで飲ませてしまった責任はとらなくてはならない。
「乗せてもいいけどちょっと待ってくれ、寝不足かわからんけど妙に頭がふわふわするんだ」
俺自身もクラブではしゃいでいたこともあり、しかも酒でブーストをかけなかったのもあって身体がついていかなかった。歳はとりたくないよな。ほんと。
「えー、寒い。今乗せて帰ってくれたら、アキラの部屋に泊まろうかと思ってたのに」
そんなことを言われてしまえば俺も男だ。明日親父の葬式があったとしてもそんなのは無視。据え膳はご飯一粒残さず食べることにしている。俺はお行儀がいいんだ。
なんの迷いも見せず、顔も見ず、「わかった」とだけ答えた。しかし、俺にも逡巡がなかったわけではない。そんなことを企てて連れてきたわけでもないし、けれど、部屋に入れば俺はきっと手を出すに違いない。
アホかと、そんな尻込みする尻を蹴り上げる。なんでもいい。その時したくて許されればすればいいし、やっぱ無理と言われればそれまでだ。
俺は腕にまとわりつくチカを無視しながら、努めて迷惑そうな顔を作ってバイクへと向かう。ああ、いやだいやだ、勘弁してくれ。なんてね。そんな俺の足元は、クラブの名残か、ほんの少しだけスキップしていたに違いない。
普段は下道でのんびりと帰る俺だが、久々に感じる背中の温もりに急かされるように、その夜は高速道路を使って帰路を辿った。
速度はそれなりに出ていて、夜道を照らす街灯は、まるで猛スピードでこちらに殺到する火の玉のように見える。
俺の背中に抱きついているチカはケタケタと笑っていた。
「もっと速く! 速く!」
そんなことを言って煽る。俺は一ミリリットルも飲んではいないはずだったが、けれど何かに酔っていた。普段ならそんなことはしないのに、俺は煽られるままにアクセルを開けてスピードを上げた。
顔にぶつかる風圧は徐々に強く、冷えた空気と相まって刺すような痛みすら感じるが、その時はそれすらも快楽のように感じていた。
そして、名前も知らない脳内物質が滲み出てしまったかからなのか、全てがスローに見えた気がした、それは恐らく錯覚で、視界が徐々に収束していたことにも気づかなかった。
ふと、収束しきった視界は、結局、すべての光を奪い、俺は方向感覚を失った。
握るハンドルの硬さや、後ろに感じるチカの体温は鮮明なのに、俺の耳と目はすべての仕事を放棄していた。何も聞こえない、何も見えない刹那が続いた。
数秒か、あるいは一秒にも満たない時間、俺は気絶に近い感覚の中にいた。
気がつけば、目の前は緩やかな右カーブだった。
しかし、必要な減速をすることのなかった俺は、瞬時に首にあてがわれた死神の鎌の冷たさを知った。
急ブレーキをかけるか、減速しながら限界まで車体を傾けるか。その二択のうち、後者を選択した。
強くブレーキを賭けて車輪がロックし、タイヤが滑って壁に激突。そんなイメージが脳裏に浮かび上がったからだ。結果俺は生きてるし、それは天啓だったのかもしれない。
不快な、金属がこすれる音がした。車体の底が地面と接触して、派手な火花を足元で散らせながら、俺はヘルメットすらも地面の擦れる程に車体を傾けた。
カーブの終りが見えた頃、曲がりきれた安心感を持つことも許されない状況が続く。今度は車体を正常な角度に引き戻さなければならない。全身の筋繊維が何本もブチブチと音を立てて千切れていく感覚を味わいながら、全身全霊で体勢の立て直しを図った。
応えるように車体は持ち上がったが安定はしない。最後の試練だとばかりに、バイクは子気味のいいリズムを奏でるメトロノームのように右へ左へぶれた。
あんたはバイクの免許を持っているだろうか。教習の中にスラロームなんていうジグザグ走行がある。それが意図もせずに猛スピードで行われる感じ。
どうすればいいのかなんてわかるはずもない。教習所の教本を全部暗記してたって無意味だろう。ただ、本能のままに、生存本能のなすがままに身体を動かした。どのように考えて、どのように動かしたか、当時の記憶は不鮮明だ。もしかしたら何も動かしてはいないのかもしれない。
――気がつけば、元の状態に戻っていた。夢でも見ていたような気分だったが、背中を流れる冷たい汗、馬鹿みたいに鳴る心臓が、濃密な死の残り香のように感じた。きっと、俺は足の一本程を向こう側に突っ込ませていたのだろう。
胸の下辺りをギュッと結ぶ細いチカの腕の存在は、いかにそれがヤバイ状態だったかという現実を突きつけた。一人の時ならまだしも、他人を後ろに乗っけた状態で事故りかけるなんて最低だ。
心の中で悪態をつき、努めて安全運転で帰路を辿った。
この時、もうバイクなんて捨ててしまえばよかったのかもしれない。これは俺の後悔の一つだ。もしあんたが大切な人を後ろに乗っけるときはくれぐれも気を付けてくれ。なんせ、どれだけあんたが安全運転してたって、事故る時は事故るんだ。なら、勝手に後ろのやつが手を離して途中下車したら? もう目も当てられないよな。どうしようもない。
最終的に出た結論は一つ。もし後ろに大切な人を乗せるなら、荒縄で自分の身体に結びつけてやること。
まあ、今はもうバイクはないし、あったとしても、もう二度と俺の大切な人が後ろに乗ることはないんだけどね。
「怖い思いをさせてごめん。反省してる」
マンションの駐輪場に到着し、バイクを降りた俺は開口一番に謝罪した。いいわけするつもりなど毛頭ない。ただひたすら自分の非を認めて謝り倒す。人に向かって頭を下げたのなんて何年ぶりかのことだった。
「いいよ。むしろ、私が飛ばしてなんて馬鹿なこと言ったせいなんだから。ごめんなさい。バイクも絶対、どこか傷ついてるよね。ヘルメットも――ここ削れてる。私はアキラのものを壊してばっかりだね。ううん。たまたま運良くものだけが傷ついてるけど、前だって、私がもう少し落ちるところを変えてたら、アキラに大怪我させてたかもしれない。それどころか死なせてしまったかもしれない。――私、最悪だ」
そんなことを言って、初めて会ったときよりも悲しそうな顔で涙を流すチカを、俺は反射的に抱きしめていた。恋や愛なんか、撚れて拗れて擦れてしまっている俺には理解できないが、その時はただ抱きしめたいと思った。
「そんなこと、言うな。チカが今、俺の目の前にいることを、俺は嬉しいと思ってる。あの時も、今も、チカが死ななくてよかったって本気で思ってる。バイクが壊れても、車が壊れても、俺が死んでも、俺は、チカが死ななくてよかったって思うよ」
そんな気障なセリフなんかを吐きながら、胸の温もりをもっと感じたいなんてことを考えていた。
俺は、セックスをゲームのようだと常々思っていた。それもリズムゲーム。
難易度を選択して、流れてくる目標をリズムよく消化して高い評価を目指す。グッド、グレイト、パーフェクト! って具合にね。
本能的な欲望に満ちたセックスを、誰かが犬みたいだのと表現するよな。けれど、どうなんだろう。彼らは生きることに貪欲だ。我を忘れて生殖器に脳みそを乗っ取られるように互いを求め合うのはまさしく人間だけなんじゃないだろうか。だって、大概そう言ってるやつって、犬の交尾なんて見たことないだろ? 彼らのセックスのほうが人間と比べてよりスマートであることを、さて、どれだけのひとが知っているのだろうか。
ともかく、俺はそういう荒々しい、互いを食い合うようなセックスは好きじゃなかった。極めて理性的に、冷静と情熱を繰り返して、女が快楽に溺れていく様を眺める。
しかし、その日の俺はいつもと違う感覚を味わっていた。直前で死を実感したからだろうか、それが俺の生存本能、生殖本能を刺激したのかはわからない。
ただ、全身にこもるお互いの生きたいという欲望を熱に変えて放出するように、俺たちは乱れた。
暖房なんていらない。お互いの温度があればそれで十分。むしろ余剰の熱は窓を曇らせ、身体の到るところに珠のような汗を作った。
女を抱くという行為に、かつてこれまで夢中になったことはなかったように思う。ただ、身体の一部を出し入れしてしびれたように反応する様を堪能するだけのものだった今までのセックスは、結局の所は独りよがりの自慰行為でしかなかったわけだ。
溺れるように漏れる嬌声、溢れる快楽は直前の恐怖の裏返しか。
どこを触ればどんな反応をするか、そんなことを考えている暇もない。寄せては返す波のような自然現象に近かった。思考や逡巡もなく、俺がただ本能のままに動けば、その何倍もの反応が返ってくる。
「――やだ。もう、やめて」
そんなチカの言葉が、彼女の本心じゃないことなんてすぐにわかった。身体以上に、心が繋がっているような感覚だった。
天の邪鬼で無粋なチカの唇を自分のもので塞ぎ、もっと深く、もっと一つにと、そう願った。
程よい倦怠感と特有の匂いに包まれながら目を覚ますと、同じ布団で眠っているチカの横顔を眺める。昨夜のことを思わず反芻してしまう。身体に染み付きそうな残り香を洗い落とすために、俺は一人浴室へと向かった。
「風呂入ってくる」
「――うん」
もしもこの間にチカが消えてしまっていたら、昨日のことは忘れよう。しかし、戻ってきた時にまだこの部屋に残っていたなら、チカを特別な存在と認めよう。
心の中で一種のギャンブルのような決意をしながら、手の指や太ももに残る体液を念入りに落としていった。
勝ち負けはともかく、チカは未だ部屋の中にいた。わざわざ湯を張って小一時間も時間を潰して、チカに考える時間を与えたつもりだった。けれど、チカは俺が風呂へと向かったときと全く同じ体勢で眠りこけていた。いや、さっきまではよだれは垂らしていなかったか。
部屋の扉を開ける時のドキドキを利子付きで返して欲しい気分だった。
なんとなく萎えて、冷めた俺は、部屋にこもっていた匂いにも腹が立って、窓を全開。一月の冷気を思い切り呼び込んで、羽毛の詰まった掛け布団を盛大に引っ剥がした。
「起きろ! 朝だぞ!」
全裸のチカは、ビクリと身体を跳ね上げて目を覚まし、何故かその場で正座した。
「え? なに? え?」
頭のあたりにはてなマークをいくつも浮かべた間抜けな反応。数秒遅れで自分が全裸であることに気がついたようで、胸と下を手で隠すと、赤らめた顔で自分の膝に視線を落とした。
「――ああ、うん。思い出した。平気、大丈夫」
どこか、自分に言い聞かせるように呟くチカの顔に浮かぶ微笑の意味する感情は、鈍感な俺にはわからなかった。喜びの笑みなのか、後悔の嘲笑なのか。俺は一言も謝りはしなかった。謝るのは誤りを認めるということだから。チカも、なにかに納得はしているようで、動揺しているふうではなかった。
「布団、汚しちゃってごめんね。ほんと、私ってアキラに迷惑かけてばかりだ」
昨日は暗闇のなかで行為に及んでいたから気づかなかったが、シーツに目を向けると血が滲んでいた。脱ぎ散らかした下着を確認して得心がいく。昨日の行為がチカにとって初めてだったのだ。だとしても、俺は謝ったりしないけどね。
「ありがとな」
謝る気も慰める気も毛頭なかったが、なぜか感謝の言葉が俺の口から突いて出た。
別に、初めての男になれたことを喜ぶような性癖はないし、そこになんの感慨もありはしなかったが、しかし、昨日の行為は俺自身にとっても初めてに近い感覚をもたらしていた。きっと俺はそれについて感謝をしているのだろう。と、口にした後にそう決めた。
「――どういたしまして?」
お互いにとっても謎の多い俺の謝辞に、チカは何個目かの疑問符を頭に浮かべ、小首をかしげて返した。
自慢じゃないが、俺は結構料理が上手い。切るだけ、焼くだけ、食べるだけのような男料理ではなく、割と本格的な凝った料理なんかも作ったりするほどだ。女に寄生する時に求められるキャラクターは二種類ある。本当に何もしない駄目な男か、仕事以外はなんでもこなす家庭的な男。求められる姿を演じなければすぐに関係は破綻してしまう。ヒモもそれなりに苦労するのだ。
俺は後者の有能系ヒモだった頃の経験を生かして渾身の朝食を振る舞った。
そんな俺が用意した鮭の塩焼きの骨を綺麗に取り除きながら、チカがぼそっと口を開いた。
「今、私が付き合って欲しいって言ったら、アキラはどうする?」
「無職でいいなら喜んで」
真剣な顔のチカの、真剣な口調に、俺はついつい軽口で答えてしまう。これも本音と言えば本音だが、チカと付き合うために定職についてもいいかもな、と考えたことは伏せておいた。男って、なんでこういう時に限って変な見栄の張り方をしてしまうんだろうな。
「少しだけ、待っててくれないかな。いろいろ整理したいこともあるし、その後にまた、この話をしたい。だからそれまで、他の人と何をしたって構わないけど、セックスしたってかまわないけど、彼女っていう場所だけは空けておいてくれないかな?」
軽口に返ってきたのは、けれども変わらない真剣な表情と切実な願いだった。俺はもう軽口を叩くことはできず、ただ頷くことしかできなかった。
「――ちなみに、無職でもいいよ。こんなに美味しいご飯作ってくれるならね」
続けて、そんなことを言うチカの顔にようやく笑みがこぼれて、俺は心底ホッとした。
人ってのはなんでこう、突拍子もないことをするんだろうな。しでかした後の周りのことを考えているんだろうか。
そして、人ってのはなんでこう、突拍子のないことをするやつの些細な前兆に気づくことができないんだろうか。ほんと、こんなにも同じ生物同士なのに、わかり合えないのは永遠の謎だろう。
三十年連れ添った夫婦の片方が片方を急に殺したり、新婚ほやほやの若い夫婦の間に産み落とされた愛の結晶を二人してボコボコにしたり。いくら闘争を好む生物だとしても常軌を逸しているとしか思えないよな。
彼らには彼らのリズムがあって、決して突拍子でも無拍子でもないのかもしれないが、本人以外からしたら全く予想できるものじゃない。
賢い賢い科学者さまたちには、地震や台風の予測も大事だろうが、あいつらのとんでもない行動も同じくらいの努力と熱意をもって研究してほしいものだ。
まあ、それこそ地震と台風と同じ、予想できたからって止められるものではないかも知れないが、備えることはできるはずだ。心の準備とかね。
そんな、たまに世の中で散見する、なんでこんなことするんだよ馬鹿! ってなことをチカはしてくれたわけだ。
理由を知った今なら苦虫を噛み潰した上で飲み込んだ顔をしながら、無理矢理に納得することはできるが、当時の俺にはチカの行動の裏に隠れた心理心情なんて想像もしなかった。そんな余裕もなかった。
当時の世間では忖度なんて言葉が流行っていたが、俺にとってその言葉は皮肉でしかなかった。人が人の思いを完全に知ることなんて、絶対にできないんだからな。
二月の半ば、俺はチカとデートなんてものをしていた。なんども身体を重ね、なんども時間を共有したが、あえてデートなんて言葉を使うのって、結構恥ずかしいよな。けれど、あえてその言葉を使うのにも理由があった。それが本当に漫画やアニメなんかで繰り広げられるような胃もたれするくらいの時間だったから。
昼間から街に繰り出した俺たちは、まずおしゃれなカフェでランチ、デザートはパンケーキ。
昼過ぎからは、すでに席の予約を済ませていた、青春純愛ものの邦画を鑑賞。晩ごはんまで時間つぶしにカラオケで歌い、ディナーはフレンチのフルコース。
チカ貯金と呼んでいた交際費の残りを全部使い切っての豪遊だった。きっと、これになにかの意味がある、未だ待機と現状維持を重ねている今に、変化をもたらすかも知れない。俺はそんなふうに考えていた。
そんな濃い口のデートが終了する。へとへとに疲れ切った俺と違い、チカは常時テンションが高かったし、今もご機嫌だった。
この寒いのにショートパンツを履いたチカのタイツに包まれた脚線に目が惹きつけられた。その心を表すように弾むチカの足取り。踊るかのように歩くチカの姿はとても印象的だった。
飛んで跳ねて震えて、つややかに光る黒色の太ももなんかに欲情した。今夜はどのようにチカを抱こうか、あの神秘のベールをどのように剥いで、その下に隠れた聖域を眺めてやろうか。なんてね。
しかし、踊り子のように舞うチカを、俺は二度と見ることができないのだ。それを知っていたならば。そう思わずにはいられない。いろいろな角度からいろいろなカメラで動画に収めていたに違いない。
自宅に帰る前に、海が見たいなんてことを言うチカを後ろに乗せて、俺は疲労をこらえて港近くの海浜公園に足を伸ばした。市内でも街から距離があり、海風も強く肌寒い。この時期にバイクで来るような場所では決してなかった。
そもそも、今日はバイクに乗りたいなんてチカが言いださなければ、修理を終えて帰ってきたクラウンででかけていたはずだった。タイツを履いているにしてもほぼ生足と変わらないその格好で寒いなんて言い出そうものならすかさず嫌味を返してやろうと思っていたが、チカは一言もそんなことは口にしなかった。
ただ純粋な喜びや楽しさを口にするだけ、愉快に笑顔を浮かべるだけ。
よくよく考えてみれば、一度死のうとした人間が正常な思考でいられるのは難しいことなのだろう。俺は死にかけて生き延びた事はあっても、死のうとして生き残ったことはない。その両者は少なからず似ているが、きっと、全く異なったものに違いなかった。
海浜公園からの帰り道。海沿いの峠道でもあるため、極めて安全運転に努めていた俺と、腰に抱きつくチカを乗せたバイクは、緩やかな曲がり角に差し掛かった。右カーブ。忘れもしない、あの感覚。
俺はいつもよりも入念に減速し、なおかつ道路の中央寄りを走っていた。
ふと、おかしなことに、痛いくらいに力を込めてまわされていたチカの腕から力が抜けた。まるで初めからそこに無かったかのように、初めからそこにいなかったかのように。
俺はフルフェイスのヘルメットを被っていたし、エンジン音も大きい。いくら叫んでもチカには伝わらないだろう。
慌てて振り返り、危険であることを伝えようとした。はやく俺の腰に手を回せと、そう伝えたかった。伝わらなくてもいい、ただチカの腕を片手にとって、掴みたかった。
けれど、俺の左手はチカの腕に触れることはできなかった。
――時が止まっているのかと思った。
なんたって、チカが宙に浮いたまま静止しているように見えたからな。
宙に投げ出されたチカと、数瞬視線が交わされた。優しい、希望に溢れた目をしていたように見える。まず、この世界に、自分の人生に絶望しているような人間がするような目ではなかった。
しかし、チカのその行動は、紛れもない――自殺だった。
「チカ!」
時間の停止は終わりを告げ、後は叩きつけるように降りかかる現実だけが残る。俺はスリップすることなど考えもせずに急ブレーキをかけた。運良くバイクはすぐに止まり、けれどもそのまま倒れた俺は、惨劇の続きを目撃した。
バタバタと転がるチカは、まるで形の歪なボールだった。転がって跳ねて、転がって。ついにはガードレールのない道路の端へと吸い込まれていく。止まれ、止まれと心の底から叫んでも、動き出した時間はもう止まらない。弾むチカの身体も、止まらない。
――そして、俺の視界からチカは消えた。
崖の下に墜落した。
俺は、いたる所から血を流しながら、チカが落ちていった場所へと向かった。
ひとってのは、本当に信じられないことや、信じたくないことが起きた時、世界に裏切られたような孤独感を味わうらしい。
たどり着き、見下ろした。眼下に広がる光景は、あまり思い出したくないので割愛する。
例えるなら、子供が泣きながら手に持っている、壊してしまった人形だ。直してと、直してとすがっても、直れと、直れと祈っても、決して元には戻らない人形だ。
ほんと、勘弁してほしいよな。つい数刻前まで、俺はどんなふうにチカを抱くかなんてことを考えていたわけだが、とんだ道化を演じていたのかと自己嫌悪に陥った。
なんせ崖の下で山道。救急隊も来るのに時間がかかった。何度飛び降りようとしたのかわからない。けれども、こんなときにでも臆病な俺は、結局その姿を眺めることしかできなかった。自分が死ぬ。ただ、それ以上に、もしもチカが死んでいなければ、という一縷の望みもあった。だから、なんて言い訳だが、つまりはそう、俺はチカのためには死ねないのかも知れないって話。
這い上がれないくらいの泥沼にはまった俺は、苦痛の毎日を送った。俺は全身を擦りむいただけだったし、その日の内に自宅へと帰っていた。バイクは廃車だった。意外と普通に悲しかった。
俺は、きっと荒れていたと思う。引きこもっては駄目だと考えて、何度も外へ出るけれど、その視界のすみにはいつもチカがいて、いないことを、現実を叩きつけてくるのだ。
事故から十日ほど経ち、唐突にチカから手紙が届いた。おいおい、俺が読まずに捨てるタイプだったらどうするんだよとも思ったが、後先の考え無さはチカらしいなと思った。
その中身に書かれていたのは、言い訳というか理由というか、そのようなものが丁寧につらつらと書かれていた。それはもう、皮肉なほどに達筆でね。
アキラへ
こんにちは。チカです。このような形での連絡になり、大変申し訳ありません。今、私はどうなっているでしょうか。この手紙を読んでいるということはきっと死んでいるでいるのだと思います。なぜなら、もしも生きていたならすぐにこの手紙の郵送をキャンセルするつもりだったからです。私はどのような死に方を選んだのでしょう。今の私にはわかりません。
私はアキラが好きです。本当に、大好きです。世の中に純愛なんて存在しないと思っていました。みんなが、愛とか恋とか呼ぶものを、私は欲望と計算と、ただ生きるための道具のように思っていました。どれだけ落ちるように恋をしても、愛しても、裏切るひとは裏切ります。それが普通だなんて、きっとみんな思っています。
これは私のまわりだけの話かもしれませんが、みんな、平気な顔で浮気をしたりしました。浮気だけじゃない。隠れて風俗で働いたり、ホストにはまったりと、そんな不義理なところばかりを見てきました。別に、それが絶対に悪いことなんて言いません。人それぞれ生き方がありますから。そうやって、自分の中にある怒りをこらえて生きてきました。本当は言いたい。浮気なんてするな! 風俗なんて仕事滅びてしまえ! 私が神さまなら、きっと、世界をこういうふうに作りはしませんでした。なんで、世界はこんなにも汚れてしまったんでしょう。
アキラは、似ているようで、私とは全然違っていました。すべてを見透かしているような顔、無邪気な顔、でも、私はあなたの、何かを真剣に考えている顔が好きでした。どうしようもなく世界が大好きで、同じくらい大嫌いなあなたが好きでした。
私は世界が大嫌いでした。社会が大嫌いでした。だって、汚いです。正しいものなんて何一つないです。苦しいです。
結局自殺をしておいて、何を長々と書いているんだと、アキラは思うかも知れません。それでも、アキラは我慢して読んでくれると信じて、続けます。
一言だけ、これだけは分かってください。
私は死にたくない。生きたいです。生きたかったです。生きてまたアキラに会いたいです。馬鹿なことをしたなと、怒られて、最後には許されて、頭をなでられたかった。
ちゃんと告白して、ちゃんと付き合って、アキラの彼女になりたかった。
私は、おかしくなっていました。これを書いている今も、きっとおかしいままです。
一度、私は死を選びました。本当の本当に死ぬつもりでした。あの高さからでも死なないなんて、しかもほとんど怪我もないなんて、意外と人間の身体は丈夫で驚きました。
死のうとして、落ちて、全身を痛みが貫いて、あの時私は、死にたくないって思いました。死ぬという行為をして、初めて本気で生きたいと、死ぬのが怖いと思いました。
そこで、私はアキラと出会った。もしも、あの時私が落ちたのが違うひとの違う車であれば、この手紙も違うひとに届いていたのかも知れません。私はアキラでないひとに抱かれていたかも知れません。想像するだけで気持ち悪いことですが。
それは、雛が初めて見たものを親だと思うような、そんな生物学的な現象に過ぎないのかも知れません。初めてアキラを見た時、涙した時、私の中で、あなたはすでに大きな存在になっていたのかも知れません。
アキラが私を連れ出して、でかけたあの日。私は、もうこれで会うのはやめようなんて思っていました。怖かったんです。知らない感情が、自殺したせいで生まれてしまったのだろうか。そう思いました。それでも、せっかく出会った、それも、運命みたいな出会い方で、馬鹿みたいな落ち方の、初めての恋を、成就させたいなんて思いました。一度きり、一回だけ、アキラに抱かれて、恋を叶えて死ぬのも悪くない、勝手ながら、そう考えていました。
けれど、まさか、もう一度死にかけるだなんて思ってもみませんでした。
その時のアキラの温もりを、一度だって忘れたことはありません。あの日、私は死ぬために身体を捨てるつもりだった。汚すつもりだった。それが、まさかあんなに生きたいと思える行為になるとは思ってもみませんでした。
私は、セックスが怖かった。みんな、それが良いことのように言いました。けれど、私はそれが怖かった。気持ちがいいのかも知れない。けれど、それで自分の心が自分とは違ったものになるようで、怖かったです。
でも、アキラに抱かれて、いけないと思いながらもその続きを求めてしまった。もっと生きたいと、アキラに抱かれたいと思うようになった。これだけ言うと、本当にただの淫乱みたいで嫌になりますが。
あなたを死に場所に勝手に決めて、勝手に生きる意味にして、ごめんなさい。
幸せだったな。本当に。アキラはスケベで、優しくて、理屈屋で、私をこんなにもめちゃくちゃに変えてしまった。
私は、死にたくない。確かに、死のうとはしていました。けれど、あなたと出会って変わることができた。そう思いたかった。
けれど、始まりが悪かったのかな。わからないけれど、多分きっとそうなんです。
死から始まった恋も、愛も、私は許すことができませんでした。
これは、きっと正しくないと思いました。もう一回、生から始める恋を、愛を、アキラと作りたいと思いました。
どうすればやり直せるのか、どうしたら正せるのか。それが、死を選んだ理由です。
私は命を賭けることで、自分の、アキラへの思いを正しいものに変えます。
愛のために死を選べる。それはきっと正しいことだと思うから。
死ぬかも知れない。もう一回死んでみて、もし生きていられたら、今度こそちゃんと始められる。そう思いました。
理由は以上です。こんなくだらない理由でアキラの気を揉ませてごめんなさい。何だこいつ、気味悪いな、なんて思っているでしょうか。愛想が尽きたなら、それでも構いません。でもきっと、これから先、アキラの目の前で死ぬような頭のおかしい女はきっと、私以外にそうそういないでしょう。アキラがこれからどんな人生を送ったとして、私をヤバイ女としてでも、記憶の片隅に残してもらえたなら嬉しい限りです。
もしもまた、あなたに会えるなら、私は正しく、諦めすにしっかり生きたいと思います。
もしももう、あなたに会えないなら、私はあなたの中で、しっかり生きたいと思います。
千歌より
事故からひと月たった今でも、俺はあの手紙を思い出す。思い出すたび、ああそうか、とため息が漏れる。
何遍読み返したところで、チカのすべてを理解するなんて大それたことはできないが、ほんの少しだけ納得できた。その納得は、俺があのクリスマスで求めたものに違いない。
俺が、自らの命を自らの行いで絶つことは、きっとこの先ありはしないだろう。
けれど、生きていく先々で、死にたくなるほどの思いを抱えた時であったり、もしくは他人の死を目の当たりにした時であったり、きっと、どこかで死ぬという温もりを知るだろう。その度に、俺はチカの行いに、納得と後悔を繰り返すんだろう。
死は冷たくて無慈悲なものだと思っていたが、けれどもそれはおそらく違う。死はその存在があるからこそ、生きることに価値が生まれるのだから。生きたい、死にたい、生きたくない、死にたくない。生きたいと思えば思うほど、死に対する恐怖は募る。死にたいと思えば思うほど、生に対する羨望が募る。
きっとこれは、最初から最後まで、バランスの話だ。
生に偏りすぎても、死に偏りすぎてもいけないのだ。人の命を灯と表現することがあるよな。その灯を大事に大事にして、四方八方を囲ってしまえばやがて消えてしまうし、かと言って蔑ろにすれば、それこそ風前の灯だ。
死にたくないからこそ死を身近に、生きたいからこそのその行いを、俺は責める気にはならなかった。
生がなんだというのだろう。死が何だというのだろう。そんなものに手はなく足もない。そんな見えないものに囚われて、チカはなんて愚かなんだ。
「ああチカ、お前はどうしてチカなんだ」
「何言ってんの?」
俺の詩的な独り言へ、怪訝な顔で水をさすチカに、俺はやれやれとため息をひとつ。今の俺は世紀の詩人になりかけていたというのに、なんとも無粋な真似をしてくれた。シェイクスピアも顔真っ赤な喜劇を披露するところだったのだ。
結論から言うと、チカは死ななかった。無傷とは、流石にいかない。重症だ。というか重体だった。意識不明の重体ってやつ。
医師にはもう、走ることはできないと言われたそうだ。腰の、俺にはよくわからないどこかが複雑に骨折したせいだとか。もう、あの綺麗な脚を、俺の前で踊らせることは二度とないのだ。バイク事故ではよくある話。ただ、寝たきりでないのは、そもそも生きていること自体幸運だ。
チカは馬鹿だ。自分が大怪我をして意識を失うなんてこと、まるで考えていなかったらしい。だから、あの手紙は俺に届いたわけだ。チカらしいと言えばチカらしい、極端な一〇〇対〇だ。
けれど、あの手紙は読んでいないことにした。届かなかったことにした。いいだろ別に、あんなのがなくたって、別に前を向いて歩いていける。
「ひとがリハビリで、こんなにも汗水たらして頑張ってるのに、変なこと言ってないで、応援とかしてよ」
勝手なことを言ってくれる。散々俺に迷惑をかけてくれたくせに生意気にもほどがある。
クラウンを修理工場送りにして、ハヤブサをスクラップにして、俺のガラスのハートを粉々に粉砕した女のセリフとは到底思えないよな。
病院のリハビリルームでは、今日もいろんなひとが明日を生きるために懸命に励んでいる。俺が無意識にできることを、彼らは汗を流し、苦痛に顔を歪めながらしなければならない。
ただ、生きるためだけに、彼らは戦いのような日々を送る。その中で見る景色や出会いは、きっとチカに光をもたらすことだろう。
俺は悲劇や悲恋なんて大嫌い。ご都合主義のハッピーエンドじゃなきゃ嫌なんだ。俺の求める結末とは、口が裂けても言えはしないが、けれど今、温かなチカを目の前で、汗を流し苦悶の表情を浮かべているのを眺めていると、この上ない気持ちになる。
「――なんかムラムラしてきた」
「馬鹿」
そんなやり取りを最後に、クリスマスを発端とした俺とチカの騒動は終幕を迎えた。チキンもサンタもない、風情に満ちた冬の些細な出来事だった。
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