4
岸と幸太郎の協力もあり、久しぶりの学校生活はすんなりと終了した。
「おう、お疲れ」
僕が岸と今日までの授業の確認をしていると、幸太郎が教室へのやってきた。
「あ、幸太郎お疲れ。なんだよ、俺を迎えに来てくれたのか、部のエース様直々に来てくれるなんて…」
岸がおどけるのもそこそこに受け流し、幸太郎は僕の机の前にやってきた。
「久しぶりの学校で疲れたか?特にやることないなら一緒に帰ろうぜ」
幸太郎の提案は、まあこんな僕を気にかけてくれて嬉しい反面、さすがに申し訳なく感じた。
「そんなに心配しなくても大丈夫だって。幸太郎は部活があるでしょ?」
「でもな、お前も久しぶりで疲れたろ。今日は送るって」
なかなか幸太郎は引き下がらない。岸は僕と幸太郎のやり取りを黙ってみている。さすがに出る幕ではないと思っているらしい。僕としては、さっさと幸太郎を部活に引っ張って行ってもらえると嬉しいのだが。
「本当に大丈夫だって。幸太郎は心配しすぎだよ。これじゃまるで…」
僕は幸太郎の顔に自分の顔をグイッと近づけて、幸太郎だけに囁いた。
「僕が何か変なことをしでかさないか、見張ってるみたいだよ?」
幸太郎は電撃が走ったかのように、明らかに身を固くし瞳には動揺が閃いた。まさか、図星だったのか?しかし、それも一瞬のことで、彼はすぐにいつも通りの飄々とした態度に戻っていた。
「…まあ、俺も心配しすぎたな、わりぃ。気を付けて帰れよ、また明日な」
「あ、はやっ!幸太郎待てよ!じゃあ黒田、また明日な!」
幸太郎は岸に声をかけることもなく、そそくさと教室を後にした。その後を岸が慌てて追っていった。
「ありがとうございましたー」
僕は下校途中にある商店街で晩御飯やら弁当やらの食材を買った。今までも料理はしていたが、ごく簡単にできるものだった。
これからは時間もあるし少し手の込んだものも作ってみようと思ったが、悩んでいるうちになんだか面倒になって、結局いつもと同じ冷凍食品を買っていた。
買い物には思いのほか時間がかかり、昼間の暖かさは夜の到来に急かされるように過ぎ去り、あたりはひんやりとしてきていた。陽は未だ長いわけではなく、僕は家路を急いだ。
ふと、一本の路地が気になった。
そこは建物に挟まれた、ありふれた薄暗い路地のように見えた。
路幅は人が二人横並びでギリギリすれ違えるくらいで、脇には自転車やゴミバケツ、なんだかわからないゴミ袋などが置かれている。奥に行くにつれ暗さは濃さを増し、最奥は深い闇に覆われている。
横の建物の屋根でほぼ塞がれた空からは、昼間でも限られた光しか届かないのであろう。僕の周囲の空気とはまた少し違った冷気のようなものが、そこには漂っているようだった。
僕は生まれてからずっとこの町で育ち、数えきれないほどこの商店街にも買い物に来ているが、このような路地は見たことがなかった。
僕はこの突発的に出現した路に興味が湧いた。
一般的な人であれば、不気味さを感じるであろうこの路地の暗闇に、なぜか心地よさを感じていた。
路地の最奥、その暗闇の中に、ぼぅと暖かさそうな灯りが見えた。僕は、この心地よさの正体があの灯りにあると直感した。
その燎火は暗闇へ誘う手招きのように揺れた。
その誘いを断ることは酷くもったいない気がして、溶けかけた冷凍食品を携え、僕は自然とその灯へと歩みを進めていた。
暗闇の中を惑いあてもなく彷徨う虫にとって、その灯りが身を焦がす猛火であっても求めずにはいられないように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます