第20話 心は男なので
大賢者ウィンターさん、お元気ですか。俺です。トウキです。
あなたの身体で生活することになってしばらく経ちましたね。
さて。
俺は今、辺境の村で祭り上げられています。
日本の祭りでよくイメージするヤツあるじゃないですか。神輿に御神体を担いで、わっしょいわっしょいってやるヤツ。
アレをされてます。
「トウキ様! トウキ様!」
神輿の上でバウンドしてケツが痛い。
ごめんなさいウィンターさん。
俺のせいであなたのケツが壊れていく。
「どっせいどっせい!」
俺達カルト村に来ちまったみたいだ。いや、村人たちに悪気がないのは分かってるんだけども、死人が出たのにこの騒ぎようはかなりヤバい。
悲しみよりエルフへの崇拝が勝ってしまうなんて、もしかしてエルフってレア種族だったりするのかも。
「大賢者様御一行」として一緒に担がれているネクサスとナシュアに目配せすると、2人共呆気に取られて言葉を失っていた。
「何だこれは」
ネクサスが耳を隠さなくても良いって言うからフードを脱いでいだのに、彼自身もこの反応は予想外だったみたいだ。
「この世界の住人ってエルフに対してこんな感じなの?」
「違う。好意的な反応を期待したのは間違いないが、この村はおかしい」
「そっか〜」
「こいつら精神汚染でもされてるのか?」
辛辣なネクサス。ナシュアはお祭り騒ぎにすっかり震え上がってしまって、俺の手をずっと握り締めてくる。確かに怖いけど、そこまで怖がることかね。
狂気のパレードが終わると、神輿を降ろされて草の冠を被せられる。そのまま「御神体じゃ」とか言って村人達は再び頭を垂れ始めた。流石にここまで来ると怖い。
「
「ええそうですとも! この村にとって森の賢人様は救世主なのです!」
「過去にも同様に村の窮地を救ってくださいました。こうして感謝してもし足りないくらいです」
「ありがたやありがたや」
へぇ、昔になんかあったんだ。何年前のことなのかは知らないけど。
「賢人様が恵みを分けてやろう」
調子に乗って水の魔法をぶちまける。小雨程度の水が半径2メートルの範囲に降り注ぐと、村人達は額を地面に擦り付けた。
「ウオオオオ」「恵みの雨だ!」
気分がいい。一生ここで暮らそうかな。
この調子で火の魔法を見せつけてやろうかと思ったが、ネクサスにシバかれたので自重する。
さて、俺に対して信仰心的な感情を抱いていない村人は年齢の若い者が多い。俺の周りにいるのは基本的に親の世代以上の年齢層だ。
さっき助けたトム君やリーアちゃんは、俺達の行為に感謝こそすれど崇拝はしていない様子。まぁ若いうちは伝統とか伝承に疎いもんだよね。俺もそうだったし。
「トイレ行くわ」
適当な理由をつけて村の中心部から離れると、俺に熱い視線をくれていたトム君が近付いてくる。
「あっあの、トウキ……さん。あちらの隻腕の方とは、そのぉ、どういった関係なんでしょうか?」
刈り上げた髪を撫でながら聞いてくるトム君。ネクサスと俺の関係が気になるようだ。
ネクサスの見た目はちょっと厳ついから、超絶美少女エルフと隻腕騎士が絡んでいるのが釣り合わないと思っているのかもしれない。確かに凸凹コンビにしても興味が湧くよな。
「俺とネクサスの関係でしょ? ん〜」
どういった関係って言われても、旅の道連れとしか答えられない。友達、仲間、師匠……まぁ友達かな? ネクサスもナシュアも俺の友達だと思ってる。
「と、友達だよ」
俺は頬を掻きながらそう言った。
何故だろう、口に出したら一気に恥ずかしくなってきた。
「○○と知り合いだよ」とは言えても、「○○と友達だよ」と言うのは躊躇っちゃう。関係性で言えば間違いなく友達なんだけど、周囲に吹聴するのが恥ずかしく思えてしまう。
「友達なんですか?」
「ん、一応な」
「よ、良かった。彼氏だったらどうしようかと」
は? 彼氏?
「ないない、ね〜よ」
俺は大きく大きく首を横に振る。その様子を見て何故かトム君は嬉しそうにしていた。
俺とネクサスが彼氏って、どこを見たらそう思うんだよ。俺は普通に女の子と付き合いたいが?
「じゃあ俺様……じゃなく、僕にもチャンスはあるってことですよね!」
「ん?」
チャンスだと?
はっ。
まさかコイツ、俺とワンチャン付き合いたいとか思ってるのか?
「え、なに? トム君は俺のこと好きなの?」
「ぶはっ!」
大賢者ウィンターの優れた見た目なのを良いことに、トム君の内情にメスを入れる。美人だし魔法が使えるしで対人における精神的余裕があるからか、グイグイ行けてしまう。すごいね大賢者パワー。
「え、え。ぼ、僕はその」
「どうなの?」
「う……い、言わなきゃダメっすか」
トム君はズボンをくしゃっと握り締め、唇を噛み締める。顔がリンゴみたいに真っ赤だ。正直言わなくても分かってしまうけれど、トム君を弄りたい気持ちがあったので攻めまくる。
「と、トウキさんのこと……好きです」
「へ〜」
「さっき助けて貰った時、一目惚れしたっす」
あちゃ〜、トム君俺に恋しちゃったかぁ。残念、大ハズレです。中身が俺である以上、しょうがないにゃぁ……みたいな展開にはならない。君の恋は実らないんだよトム君。
首元を押さえて照れ隠しをするトム君に「あ〜」と微妙な感じで切り出して、俺はこう言った。
「気持ちは嬉しいけど、こめんね」
「えっ」
彼氏じゃなくて彼女の方が欲しいからね。
「俺を好いてくれる気持ちは嬉しいんだけど」
期待させるような反応をしたのは悪いと思うが、慈悲で受け入れるわけにも行かない。やんわりお断りの言葉を投げかけると、トム君が思いっ切り息を吸い込んだ。
「……ぼ、僕は諦めませんよ!」
「え?」
「いつか振り向かせてみせますから!」
え、いや、絶対無理です。
流石に無理だったので抗議しようとしたが、それよりも早くトム君は走り去ってしまった。
「あ〜あ、行っちゃった」
俺は今日知見を得た。
好きでもない男から言い寄られたり好意を向けられるのは面倒くさい。というか不快だし不安だし嫌な感じしかしない。
友達でもない奴から告白されるのってこんなにキツかったんだ。
何となく、女性配信者の気持ちがわかったような気がする。地獄みたいなチャット欄が脳裏をよぎる。結果、俺は女性配信者にキモいチャットをしないでおこうと心に誓った。
いや、したことないけど。
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