異世界の国
第16話 魔法を鍛えよう!
色々と落ち着いた後のネクサスは、何故左腕を失ったかについても語ってくれた。やはりグルゲストとの戦いによって奪われたらしい。
そして当然疑問に上がるのが、「いつから
そもそも
魔族の発生源はダンジョン奥底の地獄とされており、ダンジョン外の目撃例はほとんど存在しない。そんな魔族の一種たるグルゲストが騎士団の幹部の座についていたというのは、どうも引っかかった。帝国が内部から崩壊しているのではないか、と。
帝国の騎士団がナシュアの祖国に戦争を仕掛けた理由も気にかかる。
こうして議論がひと段落着いた俺達の次の方針はこうなった。
まず、騎士団の追手があるヴォイスの街から脱出する。金貨の貯えはまだあるので、馬車を使って帝都に行くことになるだろう。
帝都に到着したら、大賢者ウィンターに関する文献を読みたいよねということで、一応誰でも入れるらしい帝国図書館で古書を探すことになるか。
とにかく帝都へ向かって拠点を置く。騎士団から逃げて、探検家としての活動も継続する。そんな感じの内容に決まると、ナシュアとネクサスが早速荷造りを始めた。俺はまだ火傷のせいで動けないため、荷造りは2人に任せっきりだ。
まぁ、俺の荷物は大きめの
「馬車の手配ができた。明日の未明にここを発つぞ」
相変わらず行動の早いネクサス。もしかすると、俺が眠ってる間に仕込んでいたのかもしれない。
「なあネクサス。ヴォイスの街でお前が手配されてる時、人を殺した〜みたいなことを言われてたんだけど。誰か殺したの?」
「オレじゃなくグルゲストが殺したんだろう。一度目の襲撃時、奴は咄嗟に翼で身体を守った。それを見た騎士を口封じのために殺した可能性が高い」
「容赦ないな」
「グルゲストは……いや、魔族は狡猾な連中だ。傲慢で悪辣で、自己利益のためなら何だってする。それに、奴らは人の感情を理解できない」
「そうなのか?」
「そうだ。唯一の弱点は傲慢さ故に油断すること。グルゲストはその例に漏れなかったな」
「他の魔族とも戦ったことがあるみたいな口ぶりだけど」
「一度だけだ」
「お前本当に人間じゃねえよ……」
「オレからすれば、魔族を殺し切れるお前の方がよっぽど狂ってるぜ」
こうして俺達は翌日の日が昇る前にボロ屋を出発した。たった数日の滞在だったが、この街に愛着が湧きかけていただけに、少しだけ哀愁を抱いてしまう。
火傷がある程度回復していたため、俺は介助なしでも動けるようになっていた。馬車の荷台に乗り込んで、離れていく街を見送る。
「あのボロ屋ともお別れか」
帝都まで1ヶ月の旅路だ。テレポートのような転移魔法もない。長い旅になる。
街から離れたところで、馬車の操縦がナシュアからネクサスへとバトンタッチされる。
さて、帝都までの1ヶ月で仕上げておかないといけないことがある。夢の中の大賢者ウィンターの言っていた『服』だ。
ゴッドハンドを上手く変化させて身体に着せることで、少なくとも自分の魔法では自傷しなくなるという。これを使えないでどうするって話だ。
俺は荷台の中が広いのを良いことに、早速ゴッドハンドを出現させて『服』の修行を始めた。
「トウキ様、何をされているのですか?」
「魔法の研究」
今はファイヤーボールとゴッドハンドしか使えないが、そのうち全属性の魔法を自在に扱えるようにしておきたい。『服』はその布石なのだ。
『服』のことをつらつら話すと、ナシュアの目が爛々と輝いた。
「あ、あのっ! 私もトウキ様のように魔法を使いたいです! 私を鍛えてくれませんか!?」
「えっ? 俺、魔法使いの素養とか全然ないよ? ノリで魔法使ってるだけで原理とかマジで知らないし」
「構いません! 私の魔法の師匠になってほしいんです! お願いします!」
これは困った。俺が魔法を使えているのは割と偶然の産物だ。鼻高々でナシュアの師匠ができる人間じゃない。
「えっと……ナシュアが使える魔法は火の魔法だよね」
「はいっ」
「じゃあまず火を出してみてよ」
「えっと、それが……あの日以来、炎を出せなくなっちゃったんです」
え〜、マジかよ。本気で知らないんだけど。
「出せないの? こうやって出すんだよ」
人差し指を立て、小さな炎を指先に点火してみる。これくらいなら可愛いものだ。ごく簡単な魔法なのにナシュアが拍手してくれて、俺の機嫌が上向きになった。
そういえば、魔族のグルゲストすら無詠唱の魔法は出来てなかったな。もしかして無詠唱でファイヤーボールをポンと出せる俺って天才?
逆に無詠唱だと威力が弱くなるみたいなデメリットがあったら嫌だな。今の所そういう話は聞かないから気にしてないけど。
「ネクサス〜! 魔法詠唱ってお決まりのフレーズとか絶対必要な単語とかあるのかな〜!?」
馬の手綱を握るネクサスに大声で聞いてみると、やはりと言うべきか素っ気ない返答が飛んでくる。
「知らん」
「だってさナシュア」
「とりあえず精霊に祈ればいいんじゃないか?」
「ネクサス様、それは流石に適当すぎです……」
俺は自分以外の魔法を見た経験が少ない。ナシュアの魔法は無詠唱の一度きりだったし、グルゲストの氷の魔法に関しては最後まで聞けなかった。
確かグルゲストはこんな感じの詠唱をしていた。
『氷の精霊よ』『万年を生ける氷河の息吹となりて』『我が敵を絶対の極寒へと封じ込……』
ここから先はネクサスが中断したので分からない。でもネクサスの言う通り精霊に祈っておけば何とかなる気がする。
「最初のフレーズは多分『火の精霊よ』だな」
「そうなんですか?」
「次のフレーズは凄い燃えてる感じで行こう」
「絶対上手く行きませんよ……」
呆れたようにナシュアが詠唱を始める。
「火の精霊よ――我が手に焔を宿したまえ」
人がかっこいい詠唱をしてるのって何か面白い。でも見た目が伴ってないと恥ずかしいような感じがする。
詠唱が終わると同時に、ナシュアの手のひらに小さな炎が生まれる。この前見たサイズと同じ、ビー玉くらいの小ささだ。
「わっ、出ました!」
「今のは定型文なの?」
「いえ、今のフレーズは自然に思い浮かんできて……」
やっぱり、使い手には自然とそういうヤツが浮かんでくるんだろう。恥ずかしげもなくかっこいいことをやれるネクサスやナシュアに少し嫉妬しそうになる。
しかし、ナシュアの炎はこれ以上のサイズを望めない。うんうん唸って力を込めても、手のひらの炎が揺らぐだけだ。
「魔法を使えたのは良いですけど、このままじゃ実用的じゃないですね」
「それはそうだな」
「どうすればトウキ様のような火を使えるようになるんでしょう?」
ナシュアは実用的じゃないと謙遜するが、グルゲストを倒したファイヤーボールの威力を高めたのは彼女の炎だ。ポテンシャルはあると思うんだけどなぁ。
どうすれば火力を高められるのだろうか。
魔法はイメージの世界だ。燃え盛る火をイメージしても火力が上がらないんだったらお手上げな気もする。
だったら、魔力とか体力の問題なのかな。魔法に割けるエネルギー量を増やせるんだったら、魔法の威力は上がりそうなものである。
「う〜ん」
体力を増やす。魔力を増やす。
筋トレと運動をすれば体力は増えていく。反復練習すればどんどん限界値が伸びていく――とか無いかな。そんな単純じゃなかったらどうしよう。
「魔法は生まれ持った素質によって全てが決まる。ただ、鍛錬を積めばある程度は伸びるらしい」
ネクサスがそんなことを言ってきたので、俺とナシュアは顔を見合せた。
「一緒に練習しよっか」
「そうしましょうか」
こうして俺達は、長い旅路の中で魔法の鍛錬をすることになった。
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