第3話:部活/不良生徒
「なんか気味悪い」
職員室での呼び出しの件依頼、避けられていると思うくらい
「ちょっと言い過ぎた……いや、怒鳴ってもないし俺の意見は正当なはずだ。 たぶん」
なにぶん普通の学生というものが分からないため憶測でしか判断できない。 しかし周りの同級生は特別仕事を振られている様子はなかった。
(部活か)
考えても仕方のないことは置いておいて、俺は目先の問題に取り組むため新入生に配られた部活紹介冊子を開いた。
この学校では体験入部期間が二週間を設けられていて、すでに十日が経過している。 理想の学生生活を謳歌するために、俺の中で部活は必須事項となっているがどれにすればいいか迷いすぎて、未だ一つも見学できていなかった。
『野球部に入って甲子園を目指そう!』
「うーん、女子マネとの恋とかは青春ぽくていいけど、もうちょっと緩いのがいいかな……」
ヒーローをしていた名残で身体能力が、常人離れしてしまっているのでなんだかズルをしている気分になるので、とりあえずスポーツ系は無しとする。
「お茶に、書道に、演劇、あとは音楽か。 何かやりたいけどこれってものがないんだよな……ん? 創作活動部?」
『より良い創作には様々な体験をする必要があります。 そのため創作活動部、略して創活ではたくさんの体験企画を行っており、色々なことを経験した方にオススメです』
冊子の最後に載っていた聞きなれない部活に俺は興味をひかれた。 誘い文句が今の俺にぴったりだ。 ただ具体的な内容が書かれていないため、多少の怪しさは感じる。
「まあ体験だしな」
***
「どう、仕事は慣れた?」
「あ、はい」
職員室にて組織と繋がりがあり、私の相談役でもある教頭に声をかけられた。
「そう、何かあったら言ってね」
「はい、ありがとうございます」
「硬いな~。 そういえば部活の件はどうなったの? 話せた?」
「いえ」
この学校には、まあどこにでもいるものだが少々素行不良の生徒が存在する。
彼らは困ったことにとある部活を標的に、活動の妨害行為を行っている。 その不良を恐れた教師が顧問を降りたため、私が代わりにそこへ配属されたのだ。
「ふーん、そっか。 一人で大丈夫そう?」
「はい、大丈夫です。 やれます」
私はヒーローたちとは違って、常人離れした身体能力も特殊な能力もない。
故に不良たちと対峙する際の条件としては、他の教師と変わらないため力ずくでの解決は望めない。
この部活は彼にも合っている気がしたし、欲を言えば助けてもらいたいとも思っていた。
「彼はもうヒーローではないんです。 一般人に、一生徒に頼ろうとするべきではありませんでした」
「うーん、やっぱり硬いな~。 まあぼちぼち頑張って。 いつでも相談乗るからさ」
相談役には良くしてもらっているが、おそらくこの問題で私が助けを求めることはないだろう。
(これくらいできなくて、何が正義の味方だ。 私だって組織の一員なんだから)
そう奮起したところで、特別な力が覚醒するわけはなく現実は厳しい。
「では部活に行ってきます」
「いってらっしゃーー」
「っ先生!!」
扉が勢いよく開かれたと思ったら、声を上げたのは創作活動部の部員であった。
「助けて! またあいつらが来て、それで部長と言い合いになって」
「分かりました、すぐに行きます」
「行こうか?」
「いえ、不要です」
ーーなんで邪魔するのよ!?
ーーあんたたちみたいなクズのせいでっ
ーー何するのよっ! 離してっ!
『創作活動部』とプレートの下がった教室から悲鳴のような声が聞えてきた。
本格的なまずい状況であることは察しがついた。
私は勇気を振り絞って、教室の扉を開く。
「あななたち何をしているんですか!?」
そこには数人の不良生徒に囲まれ、腕を拘束される部長の姿があった。
「こんなことしてタダで済むと」
「どうだっていいんだよ。 お前らが俺に逆らうのが悪ぃんだ」
不良グループのリーダー格の男は狂気と怒りに燃えた瞳でそう言った。
「今すぐその手を離しなさい」
「お前も俺に楯突くのか」
「今すぐ! その手を離しなさい!」
「そうか」
男が手を離したせいで部長が床に崩れ落ちた。
「
「他人の心配なんかしてる場合か?」
男は私の胸倉をつかみ、拳を振り上げ嗤った。
「死ね」
私は怖くて瞑りそうになった瞳を必死で見開いた。
体は動かない。 奥の手なんかない。
殴られるくらいどうってことないはずなんだ。 人生を、命を賭して強大な敵と戦う
出来ることなんてなくても、気持ちだけでも負けたくなかった。
それに、
「私、あなたみたいな小悪党が何よりも嫌いなんです」
「っ殺す!!」
振るわれた拳がスロモーションで流れていく。
恐怖はない。 むしろ言ってやったと、晴れやかな気分だ。
拳が当たるその瞬間、ふわりと柔らかい風が吹いた。
「それはやりすぎでしょ」
いつの間にか、目の前に誰かが立っていた。
その人は特別体格がいいわけでも、威圧感があるわけじゃない。
だけど私はよく知っていた。
その背中が守ってきたたくさんを。
こんなタイミングで来るなんて、それらし過ぎると私は思わず笑ってしまった。
「お前、誰だよ」
「先生、状況は?」
彼は大したことでもないように平然と尋ねる。
もう大丈夫、恐怖はなくなった。
***
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