第6話:青春ミッション!部員を確保せよ!



「俺ならできる、俺ならできる……よし!」


 翌日、朝。

 俺は教室の前で深呼吸しながら自分を鼓舞しながら、昨夜徹夜で調べ上げた情報を整理する。


「いきなり勧誘しても誰も聞いちゃくれない。 まずは友人を作ることが第一歩だ」


 そもそも創作活動部という部活としてはメジャーとはいえない部活である。

入りたての俺には入りたくなるように魅力を伝えることは難しいだろう。 ならばまずは仲良くなって、信用を得る。 友人になれば勧誘は容易いし、失敗しても俺の学生生活の充実という命題は叶っているので損もない。


 我ながら完璧だ、俺はほくそ笑んで勢いよく教室の扉を開いた。


ーーガラガラッ


「みんな! おはようっっ!」


ーーリア充になるための極意その1。


ーー元気に挨拶しましょう。


ーー挨拶は基本です。 明るい挨拶は好感度が上がり、人を引き付けます。


ーー恥ずかしがらず、レッツトライ!


 教室に響く俺の元気な挨拶。


(決まった……)


 俺は心の中で呟いた。 しかし、


「ちょっと何してんの。 入りたいんですけど?」

「あ、ごめん」


 一瞬の静寂。

 そして後ろから急かされて、俺は慌てて道を開けた。


 教室に入り、席につくが挨拶の返事は誰からもない。


(なぜだ……!?)


「おはよー」

「おはよ、昨日のドラマ見た?」


 そして横で平然と交わされる挨拶。


 俺は敗北を悟った。


(俺がヒーローとして戦闘力を磨いていた分、みんなはコミュニケーションスキルを磨いていたんだ。 こんな付け焼刃の武器で勝てる相手じゃなかったのか……)


 しかし俺の心は折れない。

 だって腐っても元ヒーローとして世界を背負っていた男なのだから。


(いや! 俺は負けない! 勝てるまで挑戦する! どんなに無様でも最後に立っていた奴が勝者なんだ!)


 決意を新たに俺は拳を固く握りしめた。



***



 隣の席の男子がちょっと可笑しい。


 中肉中背で見た目は普通だ。 しかしなんだろう、オーラがあって引き付けられる。 あと時々殺気を放っていることもあって、話しかけずらい。


「ハエ……ふんっ」


 たまに見せる鋭い視線は恐ろしいくらい。


 しかし悪い人ではないことはなんとなく分かる。 ただコミュニケーションは苦手らしい。


 こないだ教科書を忘れたのか、ソワソワちらちらこちらを見てくるので、


「良かったら、一緒に見る?」


 と言ったら子犬みたいににぱっと可愛い笑顔を見せていた。


 いつもああなら、友達も出来るだろうにね。


「おはようございます!!!」

「ちょっと何してんの? 入りたいんだけど」

「あ、はい」


 悪い人ではないんだけど、やっぱり彼はちょっと変わってる。


 別に仲良くなりたいとは思わないけど、遠目から見てると面白い。



※※※



ーーリア充になるための極意その二


ーー常に明るい笑顔でハキハキと!


「あ、悪い」


 俺の席に男子生徒がぶつかり謝ってきた。


 すかさず昨夜鏡の前で練習した満面の笑みを披露した。


「いやっ! 全然大丈夫だからっ! 気にしないでくれよなっ!」

「お、おう」


 会話はそれで終わった。 むしろ引かれた。


「なんでだよ、チクショウ」


 昼休み、俺は机に突っ伏してため息を吐く。


 こんな暗い雰囲気を出してちゃ余計に人が離れていくであろうことは分かってる。 だがコミュニケーションに関してズブの素人な俺でも分かる。


(このままじゃダメだ……)


 しかしどうしたら良いのか俺には分からなかった。


 ヒーローの時は最終的には力でゴリ押せば大抵のことはなんとかなった。


 けれど力で従えたものを友達とは呼ばないだろう。 思い描いていた友情はもっと純粋で、キラキラしたもなのだ。


「つ、次の極意は……こんなのに頼ってるからダメなんだよな、きっと。 友達なんて作ろうと思ってできるものじゃないんだ! ってそんな時間を掛けている余裕もないんだった、はあ」

「くくくっ」

「ん?」


 誰かの笑い声が聞こえた気がしたけれど、見渡してもこちらを見ている生徒はいなかった。


(そういえば隣の席の彼女は体調でも悪いのかな?)


 いつも真面目に授業を受けていて、休み時間には読書をしているような大人しい女生徒だ。 そんな彼女が今日に限って、頻繁に机に突っ伏して体を震わせていた。


 とはいえ急に声をかける勇気は――ない。


(もうこれはいらねえ)


 俺は友人を作るための極意を記したメモを握りつぶして、解放された気分で大きく息を吐いた。


 まだ試していなかった最後の極意があったが、どうせそれも役に立たないに決まってる――――


――困っている人がいたら助けましょう。


――そうすれば彼彼女との距離は一気に縮まるでしょう!


「バカバカしい」


 その極意が一番無意味であることを俺は知っている。


 なんせ散々ヒーローとして人を助け、世界を守ってきた俺だ。

 友人も、恋人も出来たことがないことが全てを証明している。


(そんなで友達出来たら苦労しないっての)






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