第7話 納得出来ない(テツヤ目線)
レイジは目の前にいるのに、いつだって俺の事を見守っていてくれるのに、どうしてこんなに胸が苦しくなるのだろう。さっき、もうちょっとでレイジの所へたどり着く所だったのに、ドアが開いて、兄さん達がレイジの上に乗っかって、俺はカズキに引っ張られた。腕がちぎれそうに痛かったけれど、それ以上に胸が痛かった。
今まで、当たり前のようにレイジにくっついていた。レイジも嫌がらなかったし、誰もそれを咎めなかった。仲の良い友達、もしくは兄弟のように、人前でもどこでも、俺はレイジに寄りかかったり抱きついたりしていた。おんぶしたり、されたり。それがどうして急にダメな事になったのだろう。そりゃあ、アイドルに恋愛は御法度で、隠さなきゃならないのは分かってる。でも、今まで何年もしてきた事と、同じ事をしてはいけないなんて、納得出来ない。
けど、ダメなんだよな。ファンの子達がそれを嫌がるならば。ファンの子達、嫌がっているのか?
俺は今まで、あまりネットの評判を気にしないようにしていた。動画なども、うちのグループ関連の物は観ないようにしていた。この間うっかり観てしまったら、俺の顔に淫らな体がくっつけてあって、ショックを受けてしまった。やっぱり観ない方がよかったと思った。だが、もう一度改めて、色々と観てみる事にした。たくさんあるという、俺とレイジの熱愛動画を。
「うわぁ、すごいな。」
家で独り、動画を観た。俺とレイジの動画を見始めたら、次から次へとお勧め動画が出て来た。多少ねつ造もあったが、ほとんどが本物の俺たちの写真をつなげたもので、本物の俺たちの映像だった。それなのに、何だか美しい映画でも見せられているようで、思わず照れた。確かにちょっと、これだけ集められると認めざるを得ない。俺たちは恋人同士のように見える、かもしれない。
だが、否定的な動画はほとんどなかった。SNSでも検索してみたけれど、どちらかと言うとファンの子達は、俺たちを祝福してくれていた。二人が幸せでいて欲しいとか、そういう言葉が大半だった。外国語のものも含めて。
じゃあ、何の為に俺は我慢しているのだろう。カミングアウトがまずいなら、友達同士だって言い張るから、今まで通りにさせて欲しい。
と言うわけで、俺はマネージャーさんにそれとなく言ってみた。マネージャーさんは何人かいて、イッセイさんではなく、もう少し下の人に話した。でも、それじゃあ埒が明かないらしい。イッセイさんに話すように言われた。
「イッセイさん、お話があります。」
「ん?どうしたテツヤ。」
「俺とレイジが、その、離れていないといけない理由が分かりません。」
俺がそう言うと、イッセイさんはちょっと黙って俺を見た。そして、フーッと短く溜息をついた。
「そうだな。あまり、理屈では説明できないな。」
「え?」
「悪い事をしているわけでもない。ファンを裏切るような事をしているわけでもない。二人の噂でグループの人気が下がるわけでもない。」
イッセイさんは腕組みをして、そう言った。俺には何を言われているのかさっぱり分からない。
「えっと、じゃあ、どうして離れていないといけないんですか?俺がレイジの家に行ってはいけない理由は何ですか?」
俺が言うと、イッセイさんはお手上げとばかりに両手を挙げて首を振った。
「何だかな。とにかく火消し中なんだよ。もうちょっとしたら世間様も落ち着くだろうから、そうしたらまた、今まで通りに戻っていいから。」
「もうちょっとって、どのくらいですか?」
俺は尚も食い下がる。
「それは誰にも分からない。」
イッセイさんはそう言うと、どこかへ言ってしまった。ずるい。
レイジを目で探す。いた。カズキやシン兄さんと仲良く話している。ああ、あいつはどんどん遠くへ行ってしまう。もっと近くに行きたい。二人きりになりたい。そして・・・また、イイコトしたい。俺はどうかしてしまった。あの夜の事をいつも思い出してしまう。あのまま、二度と泊まりに行かれないなんて思いもしなかった。すぐにまた、あんな事やこんな事もしてもらえると思っていたのに。アイドルなんて辞めてしまいたい。好きな人と、ほんの少し触れあう事さえ許されないなんて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます